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空港に広がる木漏れ日 宮崎空港・保安検査場リニューアルの舞台裏

空港に広がる木漏れ日 宮崎空港・保安検査場リニューアルの舞台裏

ANA REPORT SPECIAL

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チケットをかざし、保安検査場に入ると緑が広がり、木漏れ日のような光が差す——。

宮崎ブーゲンビリア空港の保安検査場が今年3月25日、一新された。
美術館を思わせるようなその空間に広がる緑は、宮崎県の写真家・黒木一明さんが撮影した宮崎の照葉樹林「綾の森」だ。

世界を知る写真家が向き合った「足元の風景」

完成した作品は、高さ3メートル、総延長およそ46メートル。空間インスタレーションとしてのテーマは「木漏れ日」だ。

撮影したのは、西都市出身の写真家・黒木一明さん。20代でロサンゼルスに渡り、1986年に自身のスタジオを構えた。世界中の雄大な自然の風景を撮ってきた。

黒木さんご自身が撮影された「綾の森」の作品と

その黒木さんが、20年以上通い続けてきたのが、地元の綾の森だった。「世界の風景ばかり撮っていて、足元の風景をきちんと撮っていない時期があった」。そう気づいてからは、綾に通いつめた。写真集も3冊出した。

綾の照葉樹林は、日本最大級のまとまりで残る原生的な森。2012年にはユネスコエコパークにも登録された。紅葉もしない。一年中、緑であることが特徴だ。「葉っぱが光を反射して輝くんです。それと照葉樹林自体が大きな面積で残っているのは綾町にしかない」と黒木さんは言う。

天からのご褒美を待つ 無意識に残る森の記憶

宮崎空港ビルの長濵相談役から「新しい保安検査場は癒しの空間にしたい。綾の森で、コンセプトは森の木漏れ日」と依頼を受けてからの撮影期間は約半年だった。

森での撮影を振り返り「努力した結果、偶然を待って撮るみたいな感覚だった。天からのご褒美がない限り、最後の一枚って撮れないような気がしていた」と話す黒木さん。

当初は春先から初夏の、緑がいちばん鮮やかな季節を狙ったが、木漏れ日は思うように出会えない。雲が流れれば光は消える。太陽が出ていても、角度が違えば木漏れ日にならない。森に通い、光を待って、やっと撮影する日々が続いた。木々の間から光が差し「これだ」と思って一瞬をカメラに収めた。

結果として作品に採用されたのは、11月頃に撮ったカットだ。

【写真】黒木一明さん提供

実際の保安検査場の写真は4枚だが、実は1枚ずつが単写真ではなく、それぞれ15〜16カットをつなぎ合わせてある。保安検査場は出発する人々が必ず通る場所。しかし森を通り抜けたという感覚だけは、無意識に残るようにと想いを込めた。「森の中で散歩している気分になると思う。そして、搭乗して、しばらくして、ふと思い出す。あの森はどこの森だったんだろうと」。海外を巡り撮影してきた黒木さん自身、世界中の空港に足を運んでいるが「宮崎空港のように、癒しの空間になっているところは他にはない」と自負している。

空港体験をストレスから癒しへ転換

今回のリニューアルの本題は、実はスマートレーンの導入という保安検査のプロセスにある。

スマートレーンは最大3人が同時に検査の準備をできる方式で、1レーンあたりの処理能力は従来の約2倍。パソコンもペットボトルも、鞄から出さずに検査を受けられる。全国で導入が進み、宮崎空港は11番目、国が管理する地方空港では初の導入だ。スマートレーンの装置を横向きに収めるために「箱」的な空間をつくる必要が生じ、そのインテリアをどうするかという検討が、結果として46メートルの森を生んだのだった。

なぜ、森だったのか?
そのきっかけは16年前に遡る。現相談役の長濵保廣氏が、宮崎空港の保安検査場に県産材の100年杉をふんだんに使った「ご当地検査場」をつくった。「杉の香るご当地検査場」は、平成23年度優良木造施設審査において、木材利用推進に大きく貢献する優秀な作品として木材利用推進中央協議会会長賞を受賞し、関係者の間でも語り継がれてきた。

今回のスマートレーン導入は、機械的な効率化による改革。それに合わせて、視覚・体感、香り、音を演出することで本格的に「癒しの空間」へ大転換をはかったのだ。実は、保安検査場の入口には南国リゾートらしいアロマが香る演出の他、検査場内で耳を澄ませば鳥のさえずりと小川のせせらぎも聞こえてくる。

空港が掲げているコンセプトは「神話と南国リゾート」。平成2年に空港ターミナルビルを建設した際も、平成11年に増改築した際も「より南国リゾートらしく、より宮崎らしく」を意識してきた。

影絵作家・藤城清治さんの原画をもとにした幅21メートルのステンドグラス「神の光」や、36年前のからくり時計。コンセプトを意識した装飾を、ひとつずつ積み上げてきたものの延長線上に、今回の森が誕生したのだ。宮崎空港の至るところに南国リゾートと神話を感じる装飾が施されている。

「優先レーンに入ったの?」思わず錯覚する記憶の場所に

 保安検査場の「癒しの空間」導入の背景を語る永山社長

「綾の森」に没入するような保安検査場の供用開始から半年。反応は上々だ。

保安検査場を通過する人たちは、圧倒的な空間と変化に驚く。優先搭乗の検査場かと勘違いする搭乗客もいて、「『通っていいの?』という感じ。一般的に全国の保安検査場は、無機質な空間を通っていく場所が多い。宮崎空港は県産材の飫肥杉を使った検査場だったが、今回は天井にパンチングメタルを配し、森の木漏れ日を再現し、綾の照葉樹林の写真や、音、香りなどで癒しの空間をつくることができた。これは当社が培ってきた、宮崎らしさの集大成となっている」と宮崎空港ビルの永山社長は言う。

設計の願いを「癒しの空間から入って行って、思い出がたくさんある宮崎にまた帰ってきたいなと、最後のところで思ってほしい」と語る。電車やバスの利用時とは違い、時間の制限や検査などの決まりが多い空港利用。ストレス負荷がかかりやすい「保安検査」というプロセスだからこそ、搭乗客と同じくらい、そこで働く従業員のことも配慮した。「ずっと立ち仕事ですから。お客様とお互いに緊張するところを疲れを軽減できるところにしたかった」。その想いは床のカーペット素材の一新にも反映された。

「効率化」と「癒し」は従業員の心にもゆとりをもたらしている。

旅人は森を歩き、光を浴びて、ゲートへ向かう。その緑が心に残って「また宮崎に来たい」と思ってもらえたら——写真家も、空港職員も、願いは同じ。

搭乗口へ向かう手前、宮崎を発つ最後の数十メートル。外側は南国リゾートらしくブーゲンビリアが配され、扉の内側で一転して森になる。「南国リゾート」と「神話のふるさと」。空港ならではの「おもてなしの心」を体感し、そして、また宮崎の地へ。

空港の「綾の森」は今日も旅立つ一人ひとりを見送っている。

お知らせ

■黒木一明さん写真展(日本遺産フェスティバル関連企画)
会場:宮崎県西都市ガイダンスセンターこのはな館 交流スペース
会期:2026年11月17日(火)〜11月30日(月) 各日10:00〜17:30

■みやざき空旅キャンペーン
https://www.ana.co.jp/ja/jp/domestic/theme/dp_coupon/miyazaki-soratabi/

写真 稲葉茂徳
取材 甲斐いずみ
編集 東江亜季子