甲府から旅の“ワクワク”を全国へ ANAグループの異色企業・FUJISEY
はんこホルダーからミャクミャクへ
ヒット商品を生み出し半世紀
「日ごろから、ANAの飛行機によくお乗りいただいているお客様でも、私どもがANAグループの一員だということをご存じない方は、大勢いらっしゃるかと思います」
女性が笑みを浮かべてこう話すと、隣に座っていた男性も、苦笑まじりに言葉を続けた。
「研修などで、ANAグループの社員と同席する際、私が社名を告げると『なにをやってる会社ですか?』と聞かれることも少なくないんです」
二人は2014年から全日空商事の系列となった「株式会社FUJISEY(フジセイ)」の小口浩子(おぐちひろこ)と三雲崇司(みくもたかし)。FUJISEYが、ANAグループ内でも“異色”の存在なのは間違いない。なにしろ、本社が置かれているのも、空港のない山梨県の甲府市だ。もっともアクセスしやすい羽田空港ですら、直線距離でおよそ125キロ、高速バスで3時間もかかる。
「実は飛行機に一度も乗ったことがない社員もいました。反面、甲府は車社会なので、県外への長距離移動も皆、抵抗なく出掛けていきます」こう言って、もう一度ほほえんだ小口は2022年、同社の社長に就任した。
いっぽうの三雲は、同社がANAグループになる以前、1999年から勤務。一貫して営業畑を歩んできた三雲は、笑顔でこう言葉を継いだ。「当時は私自身、飛行機を飛ばす会社の、そのグループの一員になろうなんて、まったく考えずに入社したんですから」
半世紀超の歴史のなか、FUJISEYは「“思い出と夢”の心を皆様に」という理念のもと、観光土産品を中心に商品の企画・開発・卸売を行ってきた。博覧会など大型イベントの公式グッズをいくつも手がけ、写真(上)の二人の背後に並ぶ全国各地の「ご当地ベア」のような、人気商品もある。なかでも、昨年度は「大阪・関西万博」の公式ライセンス商品が爆発的にヒット。創業以来最高の売り上げと利益額を叩き出した。営業利益額は、全日空商事のグループ企業のなか、トップを誇る。
今回の“主役”は「観光土産品=旅の思い出」という枠を悠々と飛び越え、富士の麓で異彩を放ち続けるANAグループ企業・FUJISEY。同社の二人に、人々の思いや夢を“ワクワク”へと昇華させる、その舞台裏を聞いた。
「はんこホルダー」から始まった、観光土産品づくりの半世紀

「創業は1970年です。山梨の地場産業である印章と、その当時、観光土産の定番だったキーホルダーを掛け合わせた『はんこホルダー』が最初のヒット商品でした」
社長・小口の説明を“生え抜き社員”三雲が引き継いだ。「弊社を創業した先代社長はカリスマ的なアイデアマン。同商品発案の契機は、国体(国民スポーツ大会)だったと聞いています。選手団宿舎を『記念のはんこ、彫りますよ』と回ったところ、反響があり『これは、いい土産品になる!』と目を付けたと」
創業者の慧眼がヒット商品を生み出し、会社の礎になった。そこからは次々に、観光土産品を企画、開発し販売していくサイクルが生まれた。小口は言う。「甲府という地の利もあったと思います。富士山という、それは大きな観光資源がすぐ近くにあったことも幸いでした」
たしかに、同社には「HAREFUJI」や「ふじちゃん」といった富士山をモチーフとした人気シリーズや、ロングセラーとなっているオリジナルキャラクターのグッズも。そして、2012年から販売を開始した「ご当地ベア」も、全国で人気を博している。北海道のメロンに宮城のずんだ餅、東京のスカイツリーに静岡の茶娘、大阪の通天閣、沖縄のシーサーなどなど、各地の名産品や観光地を題材としたベア、その数は企業コラボも含め450種を超える。
こうして、成長を遂げてきたFUJISEYは2014年、全日空商事の傘下に。1985年の入社以来、長く全日空商事で働いてきた小口は、その趣旨を次のように説明した。
「従来、全日空商事という会社は空港周辺での仕事が大半でした。ですが、飛行機を降りたお客様は空港から町へ、観光地へ、地上へと行かれます。全日空商事も、もっと地上でできること、お客様に提供できるものがあるのではないかと考えました。その点、FUJISEYは、現在も全国に3千ものお取引先があるように、地上に広範な販路を持っている。そこで『一緒になりましょう』、そういうお話が進んだのが、2014年でした」
前評判を覆した万博人気、「もっちりミャクミャク」が大ヒット

ANAグループになったFUJISEYが、その真価を発揮したのが昨年、華々しく開催された大阪・関西万博だった。ただ、順風満帆なスタートだったわけではない。三雲は「最初は少し苦しみましたし、多少の危惧もありました」と話す。
「2023年にはプロジェクトチームを立ち上げ、動き始めていたんですが……。当初は万博そのものに対するネガティブな報道もあり、苦労しました。グッズを作っても、取引先の小売店さんが手を挙げてくださらなかったり。頭を下げて、なんとか商品を置いてもらっても、開幕前の売れ行きは決して芳しいものではありませんでした。私たち、東京オリンピックのグッズも手がけていたのですが、コロナ禍で無観客開催となった結果、商品は売れ残り廃棄せざるをえない品物も。そんな苦い経験もしていたので、万博についても『本当に大丈夫だろうか』という不安がなかなか拭いきれませんでした」
三雲は「正直、躊躇する気持ちもあった」と打ち明ける。ただ、彼らFUJISEYには、そんな不安を打ち消すだけの経験の蓄積があった。「私たちは2005年の『愛・地球博』でも多数の公式グッズを開発、販売したことがあります。そのときの経験から、前評判とは関係なく、博覧会の開催期間になれば、間違いなく売れ行きは伸びると、そう確信していたんです。さらに、ANAグループに入ったことで在庫や発注、リスク管理が徹底できていましたから。腹を括って取り組むことができました」
三雲の言葉を頷きながら聞いていた小口が、力を込めた。「作らなかったらそもそも売れません。数ヶ月間の開期中に売り切ればいい、という思いもありましたね」
蓋を開けてみれば万博は連日、大盛況。当初は特徴的なフォルムに後ろ向きな声もあった公式キャラクター「ミャクミャク」も、世間はまるで手のひらを返したかのように「カワイイ!」と大ブレイク。FUJISEYの商品も売れに売れた。三雲は言う。
「正式な開幕の前に、大阪府民を招待したプレオープンがあって。私も現場に入ったんです。そのときのお客様の反応がすごく良くて。みなさん、目をキラキラさせていた。長年、いろいろな観光地やイベントの現場を見てきましたが、そのように高いお客様の熱量はなかなか経験のないものでした。果たして開幕を迎えると、現場から『グッズ、すごい売れてます、品物がどんどんなくなっています』と報告が。当初、8月分までと想定していた在庫が5月の連休ごろには売り切れてしまって、慌ててリピート生産しました」
そして万博は、同社の人材育成の場にもなった。小口が言う。「万博会場の売り場に、その年の4月に入ったばかりの新入社員を送り込んだんです。新入社員はお客様でごった返す万博会場の売り場で、実際に商品がどう売れていくのか、どのような品物をお客様が求めているのかを肌で感じることができた。最終的には15名の社員を現地に派遣しました」
三雲も嬉しそうに続けた。「彼ら、彼女らは万博閉幕後、人間的に一回り、大きく成長して、帰ってきてくれました」

彼らが企画・開発した数々の公式グッズのなかで、もっとも注目されたのが、開幕から少し遅れて投入した「もっちりミャクミャク」シリーズだ。通常のスマートなミャクミャクのぬいぐるみとは異なる、ずんぐりとした愛らしい“おでぶ”なフォルムと、クセになる独特のもちもち触感がSNSで大バズり。閉幕直前にはミニサイズ版が、さらには閉幕後にも限定カラー版が売り出された。
自らを“広報部長”と称する社長が広げる、新たな可能性

FUJISEYがANAグループの一員となって12年。だが、先に三雲が語ったように、まだまだグループ内でも、その存在が周知し尽くされたわけではない。ここで小口は、居住まいを正すようにして口を開いた。
「4年前、私は社長職に就かせてもらいましたが、自分としては“広報部長”だと思っています。ANAグループの皆さんに、もっと知ってもらいたい。当社には商品を企画する社員がいて、デザイナーがいて、優秀な営業マンがいて、取引先の棚に商品を並べる者までいる。そういった機能を全て持っているところが私たちの強みです。弊社をグループでもどんどん活用してもらいたいと思っているんです。そしてそこは、FUJISEYの伸び代だと考えています」
社長の言葉に三雲が反応した。「言葉どおり、社長はさまざまなシーンでFUJISEYのことを宣伝してくれてる。結果、以前の我々なら考えられなかったような、多くのお仕事をいただけるようになってます」
小口は「また面倒な仕事を持ってきて、って思ってるんじゃない?」と笑ったが、三雲の言に違いはない。小口の働きかけが、全日空商事グループに新しいつながりを生んでいる。「FUJISEYに受け継がれる地域に根ざした営業の姿勢からは、学べることがたくさんあります。失敗してももう一回やればよい、できるまでやれば成功になる。そうやって挑戦できる環境や、アイデアを言い出せる機会を作るのが私の仕事ですから」。そう語る小口の視線は、すでに次の挑戦を見据えている。
「この10月下旬から、ANAは大人気キャラクター『ちいかわ』とタイアップした『ちいかわジェット』を就航させます。そこでFUJISEYでも、そのコラボグッズに一部関わらせていただいております」
さらに2027年春には、またも大規模イベントが控えている。三雲が熱く語った。「横浜で開催される『国際園芸博覧会』の公式グッズを製作、販売します。園芸博の公式マスコットキャラクター『トゥンクトゥンク』を、あの『ミャクミャク』のように愛される存在にしたい、そのグッズを多くの人に届けたい、そう思っています」


撮影 加治屋誠
取材・文 仲本剛
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