メインコンテンツにスキップ
鹿児島の宝にスポットライトを ANA鹿児島支店長が語る地域の魅力を全国へ伝える仕事 

鹿児島の宝にスポットライトを ANA鹿児島支店長が語る地域の魅力を全国へ伝える仕事 

ANA REPORT 翼の流儀

share

「あ、足が抜けない! 田んぼの泥ってこんなに重たい!?明日は絶対、筋肉痛(笑)」

たっぷりと水を湛えた稲田に悪戦苦闘しながら、女性は初の田植え体験に声を弾ませていた。

ここは鹿児島県の最北端、県内屈指の米どころとして知られる伊佐市。訪れたのは、ちょうど田植えのシーズンが佳境を迎えようとしたころだった。

栽培されていたのは鹿児島県が長い歳月をかけ開発したオリジナルブランド米「あきほなみ」。なかでも、いま目の前の水田に移し植えられているのは、県内わずか19の契約農家だけに栽培が許されているという、さらに厳選された特別な米「吟地米」の苗だ。こちらは今月から、ANAの国際線ファーストクラスの食事で提供されている。

「昨年秋、初めていただきましたが、驚くほどお米の一粒、一粒が大きく、ツヤツヤで。ふっくら炊き上がったお米を口に入れると、強い粘りけと深い甘みが感じられる。他県の人気銘柄米にも決して負けない、おいしいお米だと確信したんです」

ANA鹿児島支店の支店長・山本眞由美は田から上がると、こう力を込めた。

ANAの国内33支店は、国内・国際線の航空セールスのほか、地域創生事業も担う。エアライン独自のネットワークやリソースを活かし、自治体や地域事業者とともに特産品を開発することや、観光誘客なども業務の一環だ。

そんなANAの鹿児島支店に、昨年春に着任した山本。わずかな赴任期間で、魅力あふれる食材や工芸品を次々に見つけ出すことができたのは、彼女の目の確かさか、はたまた鹿児島という地域が持つ力ゆえか。とにもかくにも、山本の働きかけが奏功し、あきほなみ・吟地米は国際線ファーストクラスで提供されるに至ったのだ。

今回は、いまでは「鹿児島PRプロデューサー」を自認する山本が語る、地域の魅力を最大限発信する、その流儀――。

「ANAブランドをもっと広めたい」

CA時代の山本。07年にはチーフパーサーの資格も取得した。

「そもそも、鹿児島には縁もゆかりもなかったんです」

こう微笑んだ山本は大阪府出身。“超就職氷河期”と呼ばれる世代の一人だった。

「就活中、ANAの採用パンフレットに『出会いの創造』と書かれているのを見つけて。『すごくいい言葉だな』と思った。出会いって、人と人との出会いもあれば、旅先で見つけた素敵な景色との出会いもある。そんなさまざまな出会いを私も創り出してみたい、この会社に入りたいと。そしてはじめは、フロントラインの役割から機内のお客様をおもてなしする客室乗務職(以下、CA)として1998年、狭き門であったANAに入社したんです」

山本には学生時代から、得意としていることがあった。

「私、新しいお店などの情報を誰かに伝えるということが、すごく好きだった。友人から『女子4人のランチにいいお店ない?』と聞かれて『こんなお店、あるよ』と教えてあげたり。後日『あのお店、すごくよかった』なんて言ってもらえることに、喜びを感じていたんです」

それは、CAになっても変わらなかった。感度の高い同僚たちとの情報交換が楽しみの一つだった。やがて、山本はこの得意分野を仕事へと昇華させる。「“旅行情報サイトの編集長募集”という社内公募があって。私、迷わず手をあげました(笑)」

山本は2004年、当時はまだ少なかった女性向けに特化した、さらには“CAがナビゲートする”と打ち出した旅行サイト「ANA Latte」の編集長に就任。

「世の女性が求めているものをキャッチして企画を組んだり、女子が喜びそうなおしゃれな神戸のお店とタイアップしたスイーツツアーを作ったり。いまでは当たり前になりましたが、ホテルの部屋に加湿器を用意することや、CA厳選のアメニティを置いてもらうこともおこないました」

編集長を務めた「ANA Latte」。「当時のターゲティングなどの経験が、いま生きていると思います」

2007年、山本は地上勤務から、機内での乗務をメインとする勤務形態に復帰した。

「改めて乗務してみると、お客様の見え方が変わりました。『このお客様は、ここにいるのが当たり前ではない。営業担当者の懸命な仕事の結果、お客様は旅をしたいと思ってくれた、ANAに乗ろうと思ってくださったんだ』と。だから私も、目の前のお客様一人ひとりを大切におもてなししないといけないと、より思うようになりました」

山本の思いはその後、さらに強くなっていく。

「乗ってくださるお客様を、CAとして待っているだけというのが、だんだんともどかしくなったんです。より多くの方に『ANAに乗りたい、旅をしたい』と思っていただく、そんな役割を担いたいと。そう、やっぱり私は『出会いの創造』をしたい、そういう気持ちが、抑えきれなくなっていきました」

こうして山本は2009年、もともと志望していた総合職への転換を果たす。

東京空港支店で羽田空港国際線ターミナル(現第3ターミナル)開業やボーイング787導入に従事したのち、コールセンター業務などを行うグループ会社への出向などを経験し、管理職へと昇格した山本は、さらにマーケティング事業を担う新会社(現ANA X)設立に参画。その後再び羽田空港に戻って旅客業務にもついた。

「その時、昔お世話になった上司に言われたんです。『フロントラインのグランドスラム達成だね』と(笑)。つまりCA、コールセンター、空港旅客、ANAがお客様と接する部署、すべてを経験させてもらいました。そんなふうに多くの部署で働いてみて、私たちが提供できる価値の高さを実感し、そして思ったんです。『“ANAブランド”をもっと広めたい、それこそが私のやりたいことなんだ』と」

鹿児島の「宝」を多くの人に伝えていく

インタビューは茶畑のなかにある「ヘンタ製茶(https://www.henta.co.jp)」のティーテラス「霧茶床」で、爽快な風に吹かれながら

山本は沖縄空港支店での3年を経て、昨年春から現職に。

「真っ先にやったのは、鹿児島県内をくまなく回ったこと。23カ所ある道の駅、それから、離島にも足を運びました。沖縄時代も離島を巡ろうと思っていたのに『いつでも行ける』と思うばかりに、結局あまり行けなかった。その後悔もあって4月に鹿児島支店に着任し、5月にはいろんな島を巡り始めました」

錦江湾に面し雄大な桜島の眺望も素晴らし い「仙巌園(https://www.senganen.jp)」で、 地域の“宝”の一つ、「薩摩切子」を視察

各地を回って、魅力的な観光地や県産品をいくつも見つけていくなか、山本には気づいたことがあった。

「鹿児島って、いいところが本当、たくさんある。でも、宣伝があまり上手にできてないんじゃないかな、そう思ったんです」

山本は「たとえばそれは『鹿児島黒牛』です」と続けた。

「5年に一度の品評会『全国和牛能力共進会』で2017年、2022年と2大会連続で日本一の栄冠に輝いているのに、そのブランド力が全国的にはまだ十分に伝わっていない。知名度の伸びしろはあると。だからこそ、PRの仕方にはまだまだ可能性があるのではないかと思って」

鹿児島には、同様の事例が少なくないと山本は考えている。

「県のPRキャッチコピーは『南の宝箱』です。それが何を指しているかというと、和牛も黒豚もブリもカンパチもお茶も焼酎も『全部おいしいです』ということ。もちろん、世界遺産の屋久島や、自然豊かな奄美大島、そのほかの島々や温泉も。でも、誰に何を伝えたいのか、何がどうおいしいのか、素晴らしいのかが伝えきれていないと思った。贅沢な悩みだとは思いますが、そこを整理して、伝えるべき相手に伝わるようにアピールしないと。宝の持ち腐れにしてはならないと思ったんです」

そこは、女性向けに特化した旅行サイトの元編集長、各所に提案を続けているという。

「丁寧に、地道に、一つひとつ対象や宣伝の仕方を設定していったほうがいい、というお話はさせてもらっています」

そうしたなか、山本の目に留まったのが「あきほなみ」だ。

「国際線ファーストクラスに搭載するお米を推薦する機会があると聞いて。鹿児島は水も土壌も素晴らしいから、いいお米もあるに違いないと調べたら、特Aランクのお米があったんです。試食してみたら、これが本当においしかった」

山本は早速動いた。推薦書を用意したあと、サンプルと見積もり(米価格)を提出しなければならない。だが、この見積もりが難題だった。担当者からは、なかなか色よい返答がこなかった。

「当時は『悪い話じゃないはずなのになぜ?』と思ってました。でも、後になって『米の見積もりというのは金相場を予想するくらい難しい』と教えられて」

言われてみれば“令和の米騒動”で米価格が乱高下した矢先の話だった。誰に話せば解決するのか。鹿児島支店マネージャーの持増が伝手を頼ってようやくたどり着いたJA(農業協同組合)に「情報をいただいても最終的には選ばれない可能性もあります」と正直に打ち明け、頭を下げた。

「すると、その方は言ってくださいました。『わかりました。鹿児島の米にスポットライトを当てようとしてくれた、そのお気持ちに、ちゃんと応えたい』と、見積もりを出してくださったんです」

その過程で「いろんなことを学ばせてもらった」と山本は言う。

「その方は、こうもおっしゃってました。『別に損得ではない、お米を作っている農家の誇りを理解してほしい』と。それを聞いて、なおさら私たち鹿児島支店としては、ファーストクラスのお客様に食べていただくだけではなく、これを機に多くの人に鹿児島のお米のおいしさを知ってもらいたい、農業産出額全国2位である食料供給地域であることや、そのほかの素晴らしい県産品のことを伝えていきたい、そういう思いを強くしたんです」

取材の最後、山本は笑顔でこう打ち明けた。

「ここはお料理も焼酎も、本当になんでもおいしい。だから私、鹿児島に来て5キロも太ったんですよ」

彼女の浮かべた満面の笑みこそが、ここがわっぜよかとこの、証拠じゃっど(ここが素晴らしいところ、その証に違いない)。

撮影 須藤明子
取材・文 仲本剛

翼の王国のアンケートにぜひご協力ください。
抽選で当選した方にプレゼントを差し上げます。