富士山望む地産地消サウナ 静岡「石畳茶屋縁」〜旅で潤う vol.17
富士山と最高級ヒノキと金谷のほうじ茶ロウリュ… 地方創生は「サウナ」から
遠くに富士山を望み、駿河湾に注ぐ大井川流域には、美しい茶畑が広がる静岡県島田市。のどかな風景のなか汽笛を鳴らしながら走るSL列車は、ノスタルジックな気分にさせてくれます。
昨年7月にオープンした施設「石畳茶屋縁」のコンセプトは、“みんなの居場所”。和食カフェと図書館が併設された町の人々の憩いのスペースに、完全貸切りのサウナエリアが誕生しました。
バレルサウナは、セルフロウリュで地元・金谷のほうじ茶の香りを楽しめます。水深1メートルある水風呂は肩まで浸かることができて、飲むこともできる水は掛け流し式。外気浴スペースでは、晴れた日には富士山を眺めながら、夜には焚き火を囲いながら家族や仲間と語り合う素敵な時間に。
「サウナは地元の熟練の大工さんと一緒に作りました。静岡県産の最高級ヒノキは節がないので熱が逃げにくいですし、手かんなで仕上げたベンチは座り心地が最高です。水風呂は立てる深さなので、一度に数人入れます」
と語る責任者の森大亮さんご自身、大のサウナ好き。地方創生の一翼を担うコンテンツとしてのサウナの可能性に期待が膨らみます。旅の途中に立ち寄りたい、癒しの場所へ……。
歴史が今も息づく石畳と数寄屋造りの建物に心がなごむ“みんなの居場所”
富士山静岡空港から車で約 10 分。旧東海道の面影を残す石畳(金谷坂)に面する建物は、情緒溢れる町屋・数寄屋造り。縁側でおにぎりを食べたり、図書コーナーで本を読んだりと、ゆったりとした時間を楽しめる。
「この石畳は、江戸時代、金谷峠の坂道を旅人が歩きやすいように山石を敷き並べたものだと言われています。50 年ほど前、電話回線を通すためにわずか30メートルを残す以外は全て石が剥がされ、一度コンクリートで舗装されたのですが、平成3年に町民たちが 1 人一石持ち寄り、石畳が復旧されました。坂道の中腹にある『すべらず地蔵尊』は、滑りにくい山石を使って石畳を舗装したことにあやかりその名が付いたのですが、受験シーズンになると合格祈願の方で行列ができるほど。大井川鐵道の『合格駅』(旧五和駅)とならび、合格祈願スポットとして注目されています」(森さん・以下同)
昔懐かしいちゃぶ台が並ぶ和食カフェでは、羽釜で炊いたご飯と7種類の野菜を使った料理「一汁一菜御膳」(写真は、豚もやしのせいろ蒸し付き)や、地元の腕利きの猟師が獲った鹿肉を使ったジビエ丼などがいただける。
「ご飯とせいろ蒸しは、京都では『おくどさん』と呼ばれるかまどを使い、炊き立てのものを提供しています。ホクホクの季節野菜や豚もやしをゆずぽん酢のタレを付けて食べる一汁一菜御膳は、とてもヘルシーで体に優しいと評判ですね。ご飯は、卵をかけて卵がけご飯にするのもおすすめです」
月額2000円で自分の選書を置ける本棚が持てる「みんなの図書館」は、自分だけの本棚を持ったり、本を借りて読んだり、楽しみ方も人それぞれ。駄菓子やおもちゃが置かれたキッズコーナーもあり、小さい子供からお年寄りまで世代を超えた交流を生み出す場所となっている。
「天井画は地元・金谷の画家が描いた龍の絵で、柱は昔、金谷にあった相撲の土俵の四隅に立っていた四本柱を移築しました。現代社会で人と人が繋がるコミュニティーというのはなかなか作りづらいと思うので、金谷の歴史に触れながら、地域の方々が気楽に集えるような場所になったらいいなと思っています」
サウナを地方創生の足がかりに
「弊社は、主にエネルギー販売(ガス・油)や水道工事、太陽光発電の販売・設置など町のインフラを支える事業を展開しています。島田市の人口は現在10万人を切って9万8千人ほどで、年々減少しています。町が衰退していけば弊社の経営も悪化するという、そんな危機感から自分たちも積極的に町づくりに参画していく必要があると考えていました。そこでもともと島田市の施設を運営受託し、『石畳茶屋縁』としてグランドオープンさせました」
サウナ施設をつくったのは、森さん自身が5年ほど前にサウナにハマったというのがいちばんの理由だが、会社の新規事業として、今後、サウナ事業に力を入れていきたいという。
「これまでに、某大物YouTuberの静岡のご自宅のプライベートサウナの設計、施工や著名編集者と一緒にサウナブランドの立ち上げなどを行ってきました。インフラ企業としての経験や知識を活かしながら、サウナ好きが手がけるからこその本物のサウナをつくっていきたいと考えています」
『石畳茶屋縁』の水風呂は、木を植えるプランターを使用することで通常の陶器の水風呂よりも10分の1のコストに抑えることに成功した。
「白樺の葉を束ねたヴィヒタで肌を叩いた後、水風呂で体を浮遊させる行為があるのですが、それをやるためにはこの深さが欲しかったんです。大井川流域の水を使用しているので飲むことができますし、掛け流しのため、かけ水をせずにそのまま飛び込むことも可能です」
県産の木を使ったバレルサウナを製造、ロウリュには、水の代わりに地元で採れたお茶の葉を使用するなど、“地産地消”のサウナづくりを目指している。
「今、県内のサウナ事業者と協力して一緒にサウナで地域を盛り上げるための活動をしています。2月23日の富士山の日に静岡空港でサウナのイベントを開催する予定です。展望デッキにうちのバレルサウナを持って行き、飛行機を見ながらサウナに入ろうという企画です。若者にも人気のサウナを活用して観光客を呼び込み、地域を活性化させたいと考えています」
笹野美紀恵
サウナトータルプロデューサー。実家は、“サウナの聖地”と称される「サウナしきじ」。サウナ・温浴施設プロデュースのほか医療機関と連携し、新しいウェルネスの形を提案している。
石畳茶屋縁-en-
案内人 笹野美紀恵
写真 木村哲夫
編集 服部広子