広島・三次 床下に棲む財運の妖怪ゲドウを訪ねて
広島県三次地方に伝わる妖怪ゲドウは、棲みついた家を繁栄へ導くと語り継がれてきた。お金を運び、小豆ご飯を好み、やがて床下にもうひとつの社会を築くという不思議な存在。その伝承を訪ねて三次を歩けば、妖怪とは人々の願いや暮らしを映す鏡なのだと気づかされる。さらに広島市内へ足を延ばし、平和と食文化にも触れる旅へ。
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
広島県・ゲドウ

ご利益 財運隆昌
床下に棲みつきゲドウ一家を拡大。その家はいつしか資産家になったそうな
広島県三次地方の言い伝えで、モグラより大きくイタチより小さいまだら模様の妖怪。床下に棲みついたゲドウは増えていき、その家は繁栄する。好物は小豆ご飯。
身も心も満足したいなら広島の妖怪を訪ねて三次へ
妖怪は人の心や生活を映す鏡であると確信するが、そこに大いなる想像力がブレンドされて、独特な存在になっていく。三次(みよし)地方が伝承地とされるゲドウは元禄時代からの言い伝えとされているが、意外と近代的な社会性を持つ不思議な妖怪だ。
大きさはモグラとイタチの間くらい、まだら模様で足が短い。ゲドウが床下に棲(す)みついた家は「ゲドウ持ち」と称され、資産家であることが多い上に、ゲドウもお金を咥(くわ)えてくる。
おまけに家に女子が生まれるごとにゲドウは75匹ずつ増えていき、その中には医者や按摩(あんま)もいれば祈祷師(きとうし)もいて、助け合いながら暮らすようになる。まるで床下にもう一つの社会ができているようだ。彼らの好物は小豆(あずき)ご飯なので、お椀を持たせた姿で造形した。

まず向かったのは2019年に開館した「三次もののけミュージアム」。江戸時代中期に三次で綴(つづ)られた妖怪物語「稲生物怪録(いのうもののけろく)」の資料が豊富で、恐ろしいだけの存在ではない、バリエーション豊かな妖怪が大量に描かれている。その想像力にただただ圧倒される素晴らしい博物館だった。

そこから車で約15分。県内外から熱心なファンが通い詰める、洋子さんとマイクさんが営むドイツパンの店「ベッカライナガヤ」。
堂々とした風情のある古民家を改装しており、味わい深い本格的なライ麦パンやプレッツェルに、一口でとりこになってしまった。ゲドウが棲み着いているかの如く大盛況だ。



ベッカライナガヤ
三次から広島市内へ 五感で味わう妖怪散歩
妖怪ゲドウを三次に訪ねてから、広島市内へ。原爆ドームの東隣に2016年にオープンした複合商業施設「おりづるタワー」を上る。

開放感この上ない吹き抜けの展望台からは、原爆ドームから宮島の弥山(みせん)までを一望でき、その建築と共に想像を絶する眺望。美しい木材の床では座ったり寝転んだり自由に過ごせる。

専用の折り紙で鶴を折れるスポットや、世代を超えた地元アーティストたちによる壁画などに触れられ、平和と歴史について静かに考えることのできる場所だ。


おりづるタワー
さて広島に来たらお好み焼き。「お好み焼鉄板焼Masaru」ではキャベツ、肉、卵そして生麺などの具材を重ねて蒸し焼きにする、これぞ広島というスタイル。

目の前の広い鉄板の上、ジュウジュウと音を立ててお好み焼きが出来上がるのを待つのは至福のひととき。甘めのソースと香ばしい肉と野菜の風味にそそられ、一気に平らげてしまう。店主曰く、調理器具や食材、タイミングでこんなに違いが出るのかと驚くくらいの奥深さを感じながら、日々お好み焼きと向き合っているそうだ。


ボリューム満点のそば入りお好み焼きには、ハラペーニョのトッピングがよく似合う
お好み焼 鉄板焼 Masaru
082-263-0234
そして広島レモンを使ったレモンサワーが評判の「LEMON STAND HIROSHIMA」へ。自社工場のシロップや様々なベースの酒が使われ、飲み比べるとそれぞれの美味しさが際立つ。サワーに合わせるのは地元食材のフィッシュ&チップスと生牡蠣がマスト。どちらも濃厚でいつまでも舌に残る。
帰路に振り返り、一匹くらいはゲドウがついてきてはくれないかと思ったが、そもそも筆者の家には縁の下がなかった。彼らはきっと今も、三次の旧家に棲んでいる。
LEMON STAND HIROSHIMA
参考
『日本の憑きもの』吉田禎吾(中央公論新社)
『開館5 周年記念企画展「 稲生物怪録」』(三次もののけミュージアム)
「ニッポン47妖怪さんぽ」が2025年度グッドデザイン賞を受賞いたしました

取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 五味茂雄
編集 中野桜子
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