琵琶湖が育てた発酵という風土の味
琵琶湖とその伏流水は、近江の暮らしと食文化を育んできた。酒を醸し、鮒鮓を熟成させ、人々の知恵を受け継いできた発酵。その一皿、一杯に宿るのは、この土地ならではの水と時間が育てた「風土の味」である。
水が育てる風景

針江を流れる水は田畑を潤し、酒を醸し、発酵文化を育んできた。高島市で161年酒造りを続ける川島酒造も、その恵みを受けてきた。仕込み水だけでなく、近年手がけるウイスキーの加水にも針江の水を使う。
「うちのブランドにとって命の水です」
そう語るのは川島達郎さん。比良山系のやわらかな伏流水は酒の味わいを形づくる。
さらに川島さんは、酒造りの本質は発酵にあると語る。
「発酵は、人の心をワクワクさせるんです」
もろみが静かに泡を立てる様子を目(ま)の当たりにすると、誰もが笑顔になるという。発酵を意味する英語「Fermentation」には、心を躍らせるという意味もある。
余呉(よご)湖畔の徳山鮓(とくやまずし)では、近江を代表する発酵食・鮒鮓(ふなずし)を受け継ぐ。強い発酵香ゆえに敬遠されることもある伝統食だが、徳山浩明さんは創意工夫を重ね、多くの人にその魅力を伝えてきた。
「発酵文化を残すには、まず食べてもらわないといけない」
そう考える徳山さんが大切にするのは、この土地の風土そのものを料理で伝えることだ。
「同じ水で育ったものだけで料理を作りたいんです」
湖の魚も、山の恵みも、酒も米も、その源をたどれば、いずれも近江の水へと行き着く。
かつて近江は、琵琶湖の水運や鯖街道(さばかいどう)によって人や物が行き交う場所でもあった。多くの食材や文化がこの地を通り、保存の知恵として発酵文化も発展していった。その流れは今も変わることなく近江の風土の中に息づいている。
写真 木内和美
取材・文・編集 服部広子
<滋賀への翼>
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