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競走馬も運搬、新たなビジネス機会を作り出す航空貨物の最前線

競走馬も運搬、新たなビジネス機会を作り出す航空貨物の最前線

ANA REPORT 翼の流儀

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「託された貨物は、私たちにとって“お客様”」

「ANAグループに加わったことで、従来、私どもだけでは輸送できなかった国や都市に貨物を運べるようになり、お客様へご提案できる選択肢が一気に広がっている、そのように感じています」

日本貨物航空(以下、NCA)マーケティング部マーケティングチームの窪田鮎美(くぼたあゆみ)は、笑顔でこう話した。その言葉を何度も頷きながら聞いていたANA Cargo成田ウェアハウスオペレーションセンターに籍を置く塚下浩美(つかしたひろみ)も、こう力を込める。

「貨物に特化したNCAのハンドリングスキルと、ANAの幅広いネットワークを掛け合わせ、お互いが補完し合うことで、一つの強力なコンビネーションキャリアが誕生すると確信しています」

「コンビネーションキャリア」とは、貨物専用機(フレイター)と旅客機の両方を自社で保有・運航し、貨物ビジネスを展開する航空会社のこと。最大の特徴はネットワークの広さと、大量輸送の強みを併せ持つことだ。

昨年8月、日本で唯一の貨物専業の航空会社・NCAは、ANAグループの仲間入りをした。そして、来年4月1日。ANA CargoとNCA、さらにNCAのグループ企業・NCA Japanの3社が統合し、アジア最大級のコンビネーションキャリア「ANA Nippon Cargo Airlines 株式会社」が誕生する。

今回の「翼の流儀」は統合前のNCAとANA Cargo、両社の“現場”に立つ者たちが語る、航空貨物業界の最前線――。

航空貨物会社だから感じられる、社会を支える手応え

「昨年来、理解を深めるためANACargoの方々と会議を重ねました。今後は仲間として、チームワークを発揮していきたい」(窪田)

「私は2023年、NCAに入りました。前職でメーカーに勤務していた当時の経験が、転職の動機になりました。通常、海運を使っていたものが、コロナ禍のさなか、コンテナ船が不足するなど物流が大混乱に陥ってしまって。そのとき、工場を安定的に稼働させるため航空貨物に助けてもらった。そこから航空貨物業界に関心を持つようになり、日本で唯一の貨物専門の航空会社であるNCAの門を叩(たた)きました」

これまでのキャリアを振り返りながら、現職に就いた経緯を語った窪田。対して、塚下は2015年、ANA Cargoに入社した。

「航空業界のなかでも、とりわけ物資輸送、航空貨物に興味がありました。学生時代に東日本大震災が起きたこともあり、自衛隊や海上保安庁といった保安系の国家公務員を志望した時期もありました。縁の下から社会を支えるような、そういう仕事をしてみたかったんです」

そして、そのキャリアのなか、塚下が「もっとも印象深かった」と話したのも、やはりコロナ禍の経験だった。

「お客様が全然いらっしゃらない空港ターミナルというのを初めて見ました。ところが、同じ時期、貨物地区の上屋(うわや)には貨物が溢(あふ)れ、多くのトラックが集まっていて。すごく忙しく、とても大変でしたけど、そうやってマスクや医薬品を必要とされる方々に届けることができたのは、社会を支える仕事がしたかった私にとっては、とてもやりがいを感じた瞬間でした」

いっぽう、NCAの窪田も、「十分なやりがいを感じている」と話す。

「マーケティング部では、市場やお客様のニーズを捉えながら、収益性も意識して営業施策を考えています。また、そうしたニーズを運航ダイヤの検討にも反映できるよう、関係部署への働きかけも行っています。定期便を安定的に運航することに加え、お客様のニーズがあり、運航上の条件が整えば、就航地以外へのチャーター便を検討することもあります。世界地図をにらみながら、どうやって運航するのが効率的かを考えたり。そんなところに、この仕事の面白さを感じています」

さらに窪田は、言葉を続けた。

「さまざまなニュースが毎日のように飛び込んできますが、国際情勢からダイレクトに影響を受けるのが航空業界ですから、日々の業務に取り組むなか、世界の経済の動きというものを肌で感じられるんです。そうした変化に対して、その都度考えて対応していくことに、やりがいを覚えます。結果として、経済や産業の発展、そして人々の暮らしに、たとえ一部であっても貢献できるというところは、この仕事の大きな醍醐味だと思います」

競走馬から人工衛星まで「特別な貨物」を運ぶプロたち

「NCA運航機材でノーズオペレーションなどに自分も携われる可能性を思うとワクワクします」(塚下)

一般の搭乗客にとって、馴染(なじ)みが薄い貨物専用機。そこで、貨物専業の航空会社であるNCAの窪田に、機体のこと、そして、どんなものを実際に運んでいるのかを聞いた。

「NCAが運航しているのは『ボーイング747‐8F』という貨物専用機です。旅客機であれば、お客様の座席があるところのすべてが、貨物が入る空間になっています。機体先端がパカッと大きく開く“ノーズカーゴドア”があるのも特徴です」

“ジャンボジェット”の愛称で長年親しまれたボーイング747シリーズの貨物専用機。130トン超の積載量を誇る世界最大級のこの飛行機を、NCAは8機運航している。ノーズカーゴドアからは、長尺ものや大型の貨物も直接、積み込むことができる。

「全長18メートルもある世界最大級の映画館用のスクリーンやレーシングカー、羽根を外したヘリコプターを1機まるまる積んだこともあります。海外の重賞レースで出走する競走馬を運ぶことも。競走馬は“ホースストール”と呼ばれる専用コンテナに乗せて積み込みます。馬のストレスを軽減するため、機内の空調を徹底管理し適温を保つほか、機体の2階部分には人が乗れるスペースもあるので、飼育員や獣医師らが同乗、フライト中も適宜、水や乾草を与えたりしています」

積荷には時代が色濃く反映される。

「昨今、すごく増えているのは半導体製造装置や、AI関連のサーバー、サーバーラックなどです。荷主様も貨物機のなかではNCAの機体が世界最大級であることをご存じで、747の機体の形状に合わせて角をカーブさせたり、ドアに収まるサイズぎりぎりまで工夫して梱包された貨物をお預かりすることもあります。大きさもさることながら、とても繊細なものなので、ハンドリングもすごく慎重にしなければなりません」

特殊な貨物を運ぶことは、ANA Cargoでも。その際、活躍するのが塚下も名を連ねる「プロフェッショナルユニット」だ。

温度管理や振動などへの微細な配慮が求められる半導体製造装置や生鮮品、美術品や楽器。また、多くの人の命に関わる医薬品や医療機器。プロフェッショナルユニットとは、これら特殊な輸送案件の依頼を受けた際、ノウハウや輸送スキルを備えた社員で当該案件の検討から輸送完了までの工程を一気通貫でスーパーバイズする仕組みのこと。2023年7月に発足し、現在は15名が顧客との事前打ち合わせや搭載計画の立案、さらに、実際の貨物の仕分けや上屋での積みつけなども行っている。塚下はその一例として、プロフェッショナルユニットとして取り組んだ人工衛星を運んだ案件を振り返った。

「人工衛星を一機まるごと、(ニュージーランドの)オークランドへ運びました。フライト中も極力、振動を与えないための配置や、固定するためのポイントをお客様と事前に打ち合わせし、私たちも熟慮を重ねます。もちろん、地上でのハンドリングを注意深く行う必要があるので、現地へもプロフェッショナルユニットのメンバーが同行。駐機場から上屋までの搬送、それに上屋でのフォークリフトの誘導や荷解きまで、すべてをアテンドしました」

航空貨物のプロフェッショナルが徹頭徹尾“積荷=お客様”の目線で、見守り続けるのだ。

「NCAの皆さんもそうだと思いますし、ANA Cargoも現場はプロ意識の高い者たちばかりです。ですから、プロフェッショナルユニットだから達成できた、というわけではないとも思っています。ただ、その品質、確度をより高めていくための仕組みがプロフェッショナルユニットだと思います」

NCAが運航しているボーイング747の貨物専用機。機体先端部の巨大なノーズカーゴドアを開けて、写真の半導体製造機や船舶のプロペラシャフトなど、長大な貨物を積載できる

互いの強みを一つに
新たなコンビネーションキャリアへ

写真右の人物は、ANA Cargoの柴田翔也歩(かやと)。長年、委託を受け上屋や機側でNCAの業務に従事してきた柴田は、両社の特徴をよく知る者の一人だ。「経営統合で、これまでNCAだけ、あるいはANACargoだけでは受けられなかった積荷も、運べるようになるはずです」

貨物専業という強みと広範なネットワーク、そして、高いプロ意識……これらが掛け合わさった、新しいコンビネーションキャリアがまもなく、その産声(うぶごえ)を上げる。窪田は言う。

「今年4月から、NCA便にANA Cargoの貨物を載せる、また、その逆もすでに始めています。ANAには旅客便のネットワークがありますし、これまでNCAでは運航していなかったアジア域内の路線もある。そういったところを活かしながら、お客様からお預かりする大切な貨物に対して、これまで以上に多様な輸送の選択肢をご提案し、グループとしてより大きな成果にもつなげていきたいと思っています。これまでは、両社それぞれの強みでしたが、これからはもう、どちらの強みだとかは関係なく、ともに、持ち寄った特徴を最大限に活用し、最大の結果を出す。そういった仕事を、一緒に作り上げていきたいと思っています」

塚下も笑顔でこう続けた。

「互いのハンドリングのいい部分を取り上げ、その貨物を託してくださったお客様のことを最優先に考えるその共通認識のもと、お互いが補完し合っていくことで、強い会社となっていくのでは、と思います」

撮影 水野竜也
取材・文 仲本剛

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