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3世代のボーイング737に携わってきた技術者が語る 機体進化と新造機受領の舞台裏

3世代のボーイング737に携わってきた技術者が語る 機体進化と新造機受領の舞台裏

ANA REPORT 翼の流儀

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「『ボーイング737-8(MAXシリーズ)』は、これまでの『ボーイング737-800』と比べ、さまざまな点で進化した機体です。なかでも、外見上の分かりやすい変化の一つが、主翼先端の『ウイングレット』と呼ばれる形状でしょう」

ここはアメリカ・シアトル郊外。緑が濃く、多くの水鳥が飛び交う自然豊かなワシントン湖の岸辺に建つ、巨大なボーイング社レントン工場。ANA整備センター米州技術駐在マネジャの河野泰久は、その製造ラインを真剣な眼差しで見つめていた。

「ウイングレットは翼の端で発生する空気の渦を整え、空気抵抗を低減する効果があります。従来機は上向きだったのが、737-8は上下に枝分かれした『アドバンスト・テクノロジー・ウィングレット』が採用され、燃費をさらに数パーセント改善、CO2排出量を削減することもできます」

1967年の初飛行以来、一万機以上が生産された世界的なベストセラー小型ジェット旅客機・ボーイング737。737-8はその〝第4世代〟にあたるMAXシリーズのひとつ。ANAも年内の導入を予定している。

河野はおよそ1年前から現地・シアトルに技術駐在。737-8はもちろん、ボーイング787など同社の飛行機の受領を、ANAを代表して見届けている。

今回は、新しい翼を迎え入れる最前線、その流儀を聞いた。

三世代の737に向き合って

「“クラシック”“NG”そして“MAX”と、代々のボーイング737に携われているのは、とても感慨深いです」

大分県出身の河野。幼いころは「漠然とパイロットに憧れていた」と話す。

「実家のそばに空港があったわけでもありませんから。ただただ空を見上げては、行き交う飛行機を眺めて淡い思いを抱いていたんです。でも、だんだんと成長していくなかで、機械やそのメンテナンス、エンジニアリングにも興味を持つように。そういう気持ちで大学も航空関係を専攻しました」

そして2006年、ANAに技術職として入社した。

「やはり、飛行機を間近にして、触ってみて感じたのは、その規模の大きさです。それまで乗客としても飛行機の大きさはわかってはいたつもりですが、いざ格納庫のなかで触れた機体というのはやっぱり大きくて。それから、いろんなものが取り外され、内部の構造が剥き出しになった飛行機に触れられるのも、この仕事ならではだと。機体を整備しているという実感を持てました」

入社後は機体構造の点検・修理や改修の現場メカニックとして従事。2010年には航空工場整備士の国家資格も取得した。

「まさに機体の板金というか、定期的なメンテナンスもそうですけど、ときには運航している機体に鳥が衝突しただとか、被雷による不具合が生じてしまったところの修理に向かうような、そんな整備現業で構造修理を中心に従事していました」

〝ギャラリー〟が注視するなかで、作業することもあった。

「運航中の機体に、先述したような不具合が生じた際、ターミナル脇の、ともすればキャビンのお客様が見ている前で作業することも。やることは格納庫と変わらないんですが、やっぱりドキドキします(苦笑)」

それは、10年以上前に伊丹空港で勤務していた頃のことだった。

「出発前の飛行機の、エンジンのインレットカウルのねじの1つに緩みがあるということで。それを新しいものに取り替える作業を先輩と一緒に。我々、作業中には〝指差呼称〟をするんですけど、そのときも機窓からのお客様の視線も意識しながら『確認、よし!』と、いつも以上に大声でやった記憶があります(笑)。

機材はやっぱりボーイング737でした。『737-500』、クラシックと呼ばれたもので、機体にイルカの絵が描かれた『スーパードルフィン』。私は、クラシック、それに『NG(ネクスト・ジェネレーション)』と呼ばれる『737-800』、それに今度の『737-8』と、技術業務として3世代の737に関わったことになります」

その後、河野は現場をサポートする生産業務部、さらに技術部を経て2025年、シアトルに。思い入れの深いボーイング737の最新モデルを受領する最前線に赴任したのだった。

シアトルで担う、ANA品質の最前線

「じつは2011年に半年ほど、私はシアトルに赴任した経験があります。そのときは新規に生産される航空機の検査業務が主たる仕事でした。当時はボーイング787の初号機が世に出る直前のタイミングでしたが、製造される機体を節目、節目で検査する業務のための赴任でした。そのときも、技術駐在というセクションとも接点があり、いずれは自分も改めて駐在したいと希望を抱いていました」

昨年4月から、シアトルでの技術駐在を始めた。

「こちらでの私の仕事の一つは、ボーイング社がANA向けに製造する機体の製造状況の把握です。製造中に必要な検査の支援、機体受領、及びその後の日本への空輸についてのサポートを中心に業務を行っています。機体の製造は数か月~半年ほどの時間を要しますが、その進捗の把握や検査チームの支援、ボーイング社とのコミュニケーションも重要です。製造中に問題が発生した場合や、計画通りに製造が進んでいない場合は、対応策をボーイング社と協議するなど、カスタマーとして積極的に意見具申し、ともに納得のいく解決策を見出すことで、品質の良い機体を計画通りに受け取ることを目指しています」

シアトルで働き始めて、改めて感じることも少なくない。

「ボーイング社というのはANAと比べると、ものすごく大きな組織です。それなのに、決まったことに向かって動くスピード感、その意思決定の強さというものはすごく感じるところ。ANAも、もちろんスピード感を持って物事に取り組んではいますが、どちらかというとトップダウンとボトムアップのバランスをとって動くイメージ。その点、ボーイング社にはトップの意思決定に合わせて皆が結束して一気に動く、そんな印象を強く持っています」

とはいえ「ボーイング社は柔軟さも併せ持っている」と河野は話す。それは、彼が現在の仕事のやりがいを感じる部分でもあるという。

「ボーイング社に向けて、ANAを代表して意見を述べる機会は少なからずあります。そこは、社を代表しているという意味でプレッシャーも感じることもあります。日ごろ、自社で飛行機の整備をしているなかで得たANAの知見に対して、ボーイングは真摯に耳を傾けてくれる。『それはその通りだ』と、私の意見にも耳を傾け、その声を生かそうとしてくれるんです。他の航空会社ももちろんですが、特に私たちANAの意見は大事にされているとも感じます。そこは、やりがいはもちろん、ANAの一員ということに誇りを感じる部分です」

トップの意思決定に従い、強く、結束して動く組織と、カスタマーとはいえ他社の人間の意見に対して聞く耳を持っていることは、一見相反するようにも思えなくもないが……。

「そこは意見を伝える際のポイントがあるかもしれません。リーダーシップレベルの会議での提案については『それも取り入れよう』となりますから。それに一対一の人間関係も重要だと思います。私はまだ赴任して1年ですが、そのコネクションを増やしていく、話を聞いてもらえる相手を増やしていくのも、任務の一つかなと思います」

それでも、ときに河野は「〝働き方〟の違いに国民性を感じることもある」と笑う。

「こちらの人はオフの時間を大切にします。よくあるのが、関わりのある相手が『来週から2週間、私は休みでいません』というようなこと。もちろん、その間は組織としてバックアップはしてくれるんですが。それまで普通にやり取りしていた相手から突然『来週何日まで私はアウト・オブ・オフィスです』というオートマチックな返答が来るだけになったり。そうは言っても、もうちょっと付き合ってくれないかな、なんて淡い期待も当初は持ちましたけどね(苦笑)。これはもう、カルチャーの違いですし、いまでは自分も見習わなければいけないと思っています」

新しい翼を、青い翼へ

単通路機「ボーイング737」を製造しているボーイング社レントン工場。広大なその敷地は東京ドーム約18 個分

「従来の『NG』と呼ばれる737-800と737-8では、エンジンがまったくの別物になりました。より大型化し、かつ燃費も向上しています」

まもなく、青い翼に仲間入りする新しい機体を、期待を持って河野は説明した。

「外見上では、先にあげたウイングレットのほか、エンジンのカウルも変わりました。『ボーイング787』で見られるようなギザギザなカウルが装着されていますし、機体のシェイプは一見、あまり変わってないように見えますが、テールのエリアなどで細かな空力的なブラッシュアップが加えられています。そういった変更の結果、燃費は20%向上しているというデータもあります」

進化は、コックピット周りや機体の内部にも。

「ボーイング787などと同じように、大型ディスプレイが並ぶ最新のグラスコックピットが採用されています。結果、乗務員にとって運航情報がより視覚的に分かりやすくなりました。また、ご搭乗いただくお客様の目に止まる部分としては、キャビン全体が明るく、広く感じられるようになったと思います。座席上のストレージビン=荷物収納棚の収納力が増し、また空間が広く感じられるデザインとなって開放感も増し、より快適にお過ごしいただけるようになっています」

737-8の受領という〝大仕事〟が済んだのちも、河野のシアトル駐在はまだ続く。

駐在期間が続くなか、河野もオフを以前にもまして大切にするようになった。

「マリナーズの試合を観に行ったり、家族とキャンプに行ったりしてリフレッシュすることを心がけてます。ここは東京に比べるとびっくりするぐらい、自然が多いところなので。東京だと車で3時間かけてもまだ渋滞のなか、なんてこともありますが、シアトルは1時間も走れば、大自然のなかの素敵なキャンプ場に着く。そこは私の家族にも大好評で『できるだけ長くいたい』なんて話も。シアトルでは仕事はもちろんですが、家族との時間も満喫したいと思います」

撮影 水野竜也
取材・文 仲本剛

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