歴史とアートに包まれる小さな至宝の町、ペットワース〜古くて新しい、イギリスのアンティークな街4
世界でも突出した歴史と伝統を有しながら、つねに華やかな文化の中心地でありつづけるイギリス。ロンドンをはじめとする都市部では、最先端の事物を取り入れつつも、古き良き建築を巧みに維持して次世代へとつなげていく街づくりが自然に行われている。カントリーサイドに位置するペットワースは、美しくノスタルジックな昔ながらのマーケットタウンだ。雄大な自然とイギリスらしい歴史の両方を備えるこの町では、路地裏でさえも芸術品のような趣を放つ。
絵画の世界に入りこんだかのような情趣あふれる色彩、街並み、骨董品の数々
ロンドンから南西部へ車で1時間半の場所にある郊外の町、ペットワース。鹿をはじめ多くの野生動物が生息する大きな庭園の広がる荘園邸宅に隣接するこちらは、古くからマーケットタウンとして近隣住民に親しまれ、アンティークショップやアートギャラリーが多く軒を連ねる。
町の名物は、ひとつ屋根の下に35ものディーラーが思い思いのアイテムを出品する「ペットワースアンティークマーケット」だ。かつて二人の女性を発起人に古い倉庫を改装して始まった経緯を有し、各出品者が当番制で店番を受け持つ和気藹々とした雰囲気が好ましい。発起人の女性のうちのひとりを母に持つジャニスさん(写真右)が見せてくれたアルバムには、今のマーケットに通じる空気感をすでに有する、この場所のかつての姿がおさめられていた。
古いものだけを扱っているからといって、けっして時代に取り残されていかないのには、年季のあるものをリスペクトしながら長く付き合っていこうとする人々の姿勢が理由のひとつとして挙げられるだろう。「アンティークは、いろいろな年代のものをミックスし、自分好みのテイストをつくりあげていくもの。お客さんはいつもフレッシュな感性を携えて遊びに来てくれるし、若い人も多いですよ」と、マネージャーのアンディさん(写真左)は教えてくれた。
地域を挙げて伝えたい穏やかな毎日、格式ある文化
「それぞれの店は小さいけれど仲がよく、お客さんを紹介しあって協業することも多々あります」とは、この町で個人ギャラリーを経営するルーシーさん。アンティークやアート以外にも、町では月に一度ファーマーズマーケットが開かれ、近隣の住民たちが交流を楽しみながらフレッシュな食材や手工芸品を求めて集まる。その様子からは、自分たちの仕事を愛しおのずから支えあっている、人々のしなやかな生活ぶりが見てとれた。歴史と人への“敬意”こそがこの国を特色づけ、豊かに輝かせているのだ。
Petworth House and Park
17世紀に建てられたマナーハウスを擁し、今もなお近隣の住民たちの憩いの場となっている「ペットワース ハウス アンド パーク」では、700エーカーの広大な敷地と由緒正しい美術品が残る邸宅を「ナショナル・トラスト」が管理している。
Petworth House and Park, Petworth, West Sussex, GU28 9LR
www.nationaltrust.org.uk/visit/sussex/petworth
Petworth Antiques Market
「アンティーク マーケット」には家具からリネン、カトラリーまで、多彩なアイテムが並ぶ。
East Street, Petworth, West Sussex GU28 0AB
http://petworthantiquesmarket.com
Kevis House Gallery
ルーシーさんの「ケヴィス ハウス ギャラリー」は温もりを感じるアートの宝庫。
Kevis House, Lombard Street, Petworth, West Sussex GU28 0AG
https://kevishouse.com
写真:松園多聞 コーディネーション:井上亮、長谷川友美 取材&文&編集:山下美咲