足立美術館の庭園 米誌で21年連続日本一に選定される美しさ
体感する無二の美術館 日本庭園で時を忘れる
木炭を売り歩くことから事業をはじめ、後に刀剣事業などに携わる。戦後は、繊維問屋などで財を築いた足立全康、その人が手塩にかけて創設した足立美術館。遠景、中景、近景を組み合わせた圧倒的眺望は、四季折々の姿を見せ、来訪者はただ息をのむ。
庭園もまた一幅の絵画である 変幻自在にして花鳥風月
全康は、とりわけ横山大観に心酔した。約120点を誇る大観コレクションは国内屈指の規模を有し、数々の名画を多くの人に楽しんでほしいーー、そうした願いから、美術館に足を運んでもらうため、庭園そのものが日本画を想起させるよう創意工夫を凝らした。「庭園もまた一幅の絵画である」。アイデアマンであり、人を驚かせることが好きだった人柄が、庭園を通じて伝わってくる。
「墨には五彩がありと申すが、墨はたゞ黒一色でありながら其中には濃淡渇潤の千変万化があり、(中略)肉眼で観る以上に心で読むことを必要とする芸術なのである」とは、大観の言葉だ。見る者の心に届く、全康が作り上げた世界。5万坪の日本庭園で、時間を忘れる。
館内の窓が、そのまま絵画となる「生の額絵」。樹齢100年を超えるクスノキと、奥に広がる枯山水庭のコントラストは、 来訪者にものの見方は一つではないことを教えてくれるかのよう。遠近、濃淡、動静。足立美術館は、“体験する”ことができる稀有(けう)な美術館だ。
春と秋の枯山水庭。季節によって表情を変える。
足立美術館
写真 久保田光一
取材・文 我妻弘崇
編集 高田真莉絵
写真提供 足立美術館