日本刀からアクセサリーまで 鉄の聖地・奥出雲たたらの革新的な展開
玉鋼が導く伝統と新しい挑戦 たたらの希望を感じて
現代の鉄鋼は、溶鉱炉などに鉄鉱石とコークスを投じ銑鉄(せんてつ)をつくり、溶けた銑鉄を転炉に移して鋼を大量につくる。だが、この方法では不純物が残るため、しなやかかつ強靭な日本刀の原料にはなりえない。人の力で浸炭させ、程よい炭素量を含む鋼を生み出すたたらでしか実現できないのだ。良質な砂鉄と豊かな木材を育む中国山地。環境条件に適していたからこそ、奥出雲は鉄の聖地となった。
奥出雲たたらと刀剣館
目の前で展開される作刀。毎月第2日曜日・第4土曜日(10:00~、13:00~)に、小林刀工による日本刀鍛錬実演を見学することができる。たたら製鉄の構造や背景も学べる。
鉄の聖地・奥出雲 たたらの文化を紡ぐ
現在、町ではたたらの文化を紡いでいくために、「奥出雲たたらブランド」と題して、玉鋼を使用したさまざまな製品を発信する。砂鉄を採取するために削った山肌は、後に再利用され、米やそばを作る田畑へと生まれ変わった。奥出雲は、たたらと共に歩みを重ねてきた町。神話の時代からあっただろう風景が、現代と見事に調和する。
ピアスやネックレスなどに生まれ変わった玉鋼のアクセサリー。形状、輝き、一つとして同じものはない。デザイナーの磯田菜保子さん(Mullein)は、「玉鋼という素晴らしい伝統を身近なものに感じてほしい」と微笑む。
砂鉄採取のために山を切り崩す際、鎮守の社や墓地などの神聖な場所は残した。この残丘は、たたらが行われていたことを示す生き証人だ。
写真 久保田光一
取材・文 我妻弘崇
編集 高田真莉絵