国枝慎吾のフロリダ生活記 バリアフリーは当たり前のアメリカに学ぶ日々

※ この記事は、翼の王国2024年7月号に掲載されたものです。
私は今年1月から、アメリカ・フロリダ州で妻と二人で暮らしています。オーランドにある、全米テニス協会のナショナル・キャンパスで、アドバイザーとして働きながら、英語を学んでいるのです。
昨年、競技から引退し「さあ、これから何をしようか」と考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが「英語をもう一度磨き直したい」ということでした。テニス選手として世界中を転戦していたころも、それなりに英語を話してはいましたが、やはりこの先のことを考え、語学力のレベルをもう一段上げたい、そう思ったのです。




オーランドでの楽しみは、野生動物ウォッチング。いま、妻と二人してハマっています。街中に巨大なツルが飛来するなど、この町は野生動物がとても身近な存在で、休日にはカメやイグアナ、トカゲ、それに大きな鳥などの動物を見に出かけています。先日も、ワニ見物にエアボートに乗りました。

いっぽう、生活していて驚かされるのは、町に当たり前な存在として車いすユーザーがいること、しかも大勢いることです。’90年にADA(障がいのあるアメリカ人法)という法律が施行されたアメリカでは、民間の店舗であっても車いすユーザーが使えるトイレの設置が義務付けられています。また、障がい者用駐車場に、その権利のない人が駐車すると罰金が科せられるなど、障がいのある人の社会参加を徹底して保障しています。
こちらに来て以来、私は外出時、事前に訪問先の状況を下調べすることもなくなりました。先日のエアボートも、個人経営の小規模施設でしたが、まったく問題なく楽しめました。このような環境が用意されていることで、車いすユーザーは積極的に外に出られますし、果たしてこちらの人たちも、車いすユーザーを特別な目で見ることもないのだと思います。
豊かな自然、徹底したバリアフリーと、日々感動を覚えている私ですが、じつは私の気持ちをもっともアップさせてくれたもの、それは空なんです。テニスコートで澄んだ青い空を見上げては、「この感動はプライスレスだな」と連日、テンションを上げまくっています。

国枝 慎吾
脊髄腫瘍のため9歳から車いす生活となり、11 歳で車いすテニスと出会う。四大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」を達成。23年1 月、世界ランキング1 位のまま引退。
2016年よりスポンサーシップ契約を結んでいるANAは、国枝さんの新しい挑戦を応援し続けます。