歌舞伎俳優・中村鴈治郎がすすめる〝浪花の味覚〟

［私の二枚看板］第四回／案内人・中村鴈治郎

公演で日本全国、さらには海外も回る歌舞伎俳優たち。彼らの舌を魅了した「祝着至極」のメニューを毎月２皿ずつ、紹介します。第四回は上方歌舞伎を代表する人気俳優。

今回は皆さんに〝上方の味〟を紹介いたしましょう。

１店目は、私のホームグラウンド・大阪松竹座からすぐの「活魚料理 あら磯」。ここは、関西人が大好きなふぐを、手ごろな価格で美味しくいただけるお店。５、６年ほど前、（松本）幸四郎さんが「にいさん、いい店を見つけましたよ」と教えてくれて。以来、通い詰めております。
こちらで私がいただくのは焼きふぐ、それにふぐのぶつ切り。もちろんお鍋も、てっさも美味です。でも私は、焼きふぐとぶつ切り、もうそればっかりです（笑）。
店内の水槽で泳いでいるふぐを、その場でしめ、お塩か、お醤油で下味をつけた切り身を網焼きにしていただく……、これが絶品。よく「ふぐは味がない」なんて言う人、いますけど。ちゃんと味わってくださいね、しっかり味、ありますから。
ぶつ切りもオススメです。大ぶりの切り身を、新鮮で甘い白菜と一緒に食べるんですが、私はてっさよりも、断然こちらが好みですね。焼きふぐにぶつ切り、どちらも困ったことに、お酒がどんどん進んでしまいます（笑）。ひれ酒も最高ですよ。

もう１店、紹介したいのは「やきやき三輪」。ネギ焼きやそばめしもある、関西風の鉄板焼きのお店です。本店は大阪なんですが、私がお邪魔するのはもっぱら東京の恵比寿店、それにホノルルにあるハワイ店です。先年、他界した父、それに母も大好きで、ホノルルのお店は、家族でよくうかがいました。
ここで必ずいただくのが、ホルモンキムチ豆腐焼き。ピリ辛でお酒のアテにピッタリなんです。いっぽう父は、なにわ黒牛のステーキをよく注文していました。ステーキをパンにのせて供してくれて。ステーキを終えると、肉の旨味と脂を含んだパンを、もう一度、鉄板でカリカリになるまで焼いてくれる。これが、最高に美味しい。私にとっては思い出の味でもあります。
大阪で、東京で、そしてハワイで……、上方の味を堪能しながら、上方の歌舞伎に少しでも思いを馳せていただけましたら、私といたしましても、祝着至極に存じます。

絵：矢野元晴