公認サンタクロースが語る ストックホルム空港でのサンタ国際会議の舞台裏
飛行時間が12時間半くらいではなんだか物足りなくて、目的地に近づいてきて高度を下げ始めると、つい「このままずっと水平飛行のまま飛び続けていてほしいなぁ〜」などと本音を口にしたくなる。そんな言葉を発しようものなら「ちょっとあの人おかしいんじゃない?」と言われてしまいそうなので、なるべく表情を変えずに心の底で呟く私なのだが、エコノミークラスのどんな長距離フライトもまったく苦にならない。訓練している訳ではないが、普段から椅子に座ったままよく寝落ちしているせいか、リクライニングを作動せず、ほぼ直角になったままでも充分に休息できる体になった。それが健康にいいことなのかどうかはわからない。同様に、何時間でも空港に居られる。できることなら空港に住みたいとさえ思っている。美味しいものはあるし、自身のフライトがなくても、離着陸風景を見ているだけで相当アガる。
以前、空港に3日間住んだことがある。急な天候の乱れとかで飛行機が欠航してしまった訳ではなく「よろしければ、空港で3日間ほどお願いしたい件があって……」という唐突なリクエストが来たからだ。その内容は、スウェーデンの首都ストックホルムの玄関口、アーランダ空港で「緊急8カ国サンタクロース代表者会議」を開催するので、公認サンタクロースのライセンスを有するアジア代表には必ず出席してほしいということだった。
議長国のスウェーデンを筆頭に北欧からはデンマーク、ノルウェー、さらにドイツ、カナダ、アメリカ、そして残るは中米のエルサルバドルと日本だという。事前に何が議題に上がるかも知らされず、会議でヘンなことを話してしまって外交問題にでもなったらエライことになると思って出席をためら躊躇ったが、グリーンランドに住む長老サンタクロースからは「何事も経験だよ、出席しなさい」とのお達しが。これは、もう従うしかない。
毎年、サンタクロースたちのスケジュールに余裕がある季節という理由で、真夏のデンマークで開催されている「世界サンタクロース会議」は、公認サンタクロースとその家族ら100名以上が集まるので、紛れ込んでしまえば、全員赤いコスチュームということもあって、それほど目立たない。しかし8カ国8人は脚光を浴びすぎた。『デジタル社会における公認サンタクロースの役割』、スウェーデン北部ラップランド地方で暮らす『トナカイの生息環境の保護』など、おふざけなしのガチな議題だった。空港のメインロビーの真ん中に特設ステージが設けられ、旅行客が足を止めて会議の様子を見入ったり、写真を撮ったりしていた。結局3日間、ホテルも空港内で、一度も街へ出ることなく、会議終了後は、そのまま飛行機に乗って帰国した。25年前のスウェーデンでの出来事。
〜つづく
パラダイス 山元 | ぱらだいす やまもと
プロ搭乗客。 ANA ミリオンマイラー。音楽家。餃子レストラン「荻窪餃子 蔓餃苑」オーナーシェフ。著書に『読む餃子』、英語版・フランス語版餃子レシピ本『GYOZA』、『パラダイス山元の飛行機の乗り方』『なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?』などがある。全国各地で開催中の「皮からつくる本気の餃子づくり教室」などの出演イベントの詳細は X(旧Twitter) で発信中。
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