お宝エアライングッズに囲まれて…理想の“機内生活”に本当に必要なもの
好きな物をいつも身につけていたい。好きな物にいつも囲まれていたい。
これまで乗った初便の搭乗券とか絵はがき、荷物タグから、ちょっと頑張って手に入れたお宝エアライングッズやモデルプレーン、機体パーツなどなど、搭乗の思い出に浸るには充分すぎるほどの物量で、時折部屋の中で雪崩が発生する状況にまでなってしまった。
天井からは、ビニール風船のおもちゃ、いざという時のための酸素マスクがぶら下がっているのだが、残念なことに肝心の酸素供給装置は所有していない。食器棚には、A-styleの空の日イベントで限定販売されたファーストクラス、ビジネスクラスで使用されていた食器、グラス、引き出しにはカトラリーの類がぎっしりだ。
ANAケータリングサービスのブランド「ANA FINDELISH」で自宅に届けてもらえるデミグラスハンバーグやハッシュドビーフと、これまで撮り貯めていた機内食の写真を参考に、シャンパンなどの飲み物も機内搭載品を用意。機内食の忠実再現に没頭する時間も楽しい。“餃子のフルコース”という超イノベーティブ妄想メニューを考案、いつ機内食に採用されても大丈夫なよう徹底した衛生管理の下で腕を磨いていたりと、飛行機に乗れず、家にいる時も“機内生活”の延長を楽しむ毎日だ。
数年前に親が他界して、遺品の整理などに費やす時間が増え、我に返った。自分が遺した物は、誰がどのように処分することになるのか?棺桶にあれもこれも全部残さず入れてくれと遺言したところで、そんな訳にはいかないことも充分学習した。自分にとっては大変貴重な品であっても、残された家族にとっては頭の痛い有料回収の粗大ゴミ、せいぜい資源ゴミにしかならないのかもしれない。
趣味が近い飛行機好きを集めて、ガレージセールでも行うしかないと思い始めているのだが、その開催タイミングが微妙だ。できるならギリギリを狙ってやりたいところだが、そのギリギリがいつなのか自分でもわからない。大事にしていた物を手放してしまったことを後悔するような時間も味わいたくない。そして何より唐突な開催告知は、かえって周囲を動揺させることになる恐れもある。そんな人騒がせなことは、できればしたくない。結局まだ何ひとつ放出することなく、手元にあるままだ。
最近、餃子をつくりにお邪魔した俳優さんのお宅の広いフローリングのリビングに、飛行機のギャレーに搭載されている機内カートが唐突に置かれていた。高層階の窓からの景色、ピアノ、ワンちゃん、機内カートの組み合わせに胸が熱くなった。あー、自分はこういうシチュエーションに憧れていたのか!と、ようやく目が覚めた。いずれにしろ、物は極限まで減らさなくてはならない。覚悟は決まった。
〜つづく
パラダイス 山元 | ぱらだいす やまもと
プロ搭乗客。 ANA ミリオンマイラー。音楽家。餃子レストラン「荻窪餃子 蔓餃苑」オーナーシェフ。著書に『読む餃子』、英語版・フランス語版餃子レシピ本『GYOZA』、『パラダイス山元の飛行機の乗り方』『なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?』などがある。全国各地で開催中の「皮からつくる本気の餃子づくり教室」などの出演イベントの詳細は X(旧Twitter) で発信中。
X @mambon