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ANAスウェーデン便就航から約1年 元駐日大使夫妻が語る日本文化の魅力

ANAスウェーデン便就航から約1年 元駐日大使夫妻が語る日本文化の魅力

CULTURE

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東京とスウェーデンのストックホルムを直行でつなぐ路線をANAが運航開始してから、もうすぐ1年。ANAは今後も国際線の強化に努め、日本をさらに多くの人に開かれた国へと押し上げていく見通しだ。
 
北欧は日本人にとって人気が高い訪問先として知られているが、その逆もまた然り。北欧から日本を訪れる人の数も年々増加の傾向を見せている。2025年1月末に日本とスウェーデンを結ぶ唯一の直行便が就航し、その動きに拍車がかかっている模様だ。

スウェーデン元駐日大使のペールエリック・ヘーグベリさんと、ジャズシンガーとして活躍するアンナ・ヘーグベリさん夫妻も、その利便性をおおいに実感しているという。ペールエリックさんの駐日大使時代には5年間日本に在住し、今なおアンナさんのジャズライブ出演の仕事などのため来日を重ねる二人に、日本の印象深い特色について聞いた。

調和がとれた社会や美意識 日本には恋しいものがいっぱい

──ストックホルム便が就航し、来日の時間はどのように変化しましたか。

アンナさん(以下A):とにかく本当に便利。直行便ができてとてもうれしいです。羽田に発着するので、空港が都心から近いのも重宝するポイントですね。

ペールエリックさん(以下P):以前はロンドンやフランクフルト経由で、長いフライトのあとさらに乗り継ぎ便を待たなければならなかった。それがなくなり、家から日本まですぐにアクセスできるようになったのは大きな利点です。私の政府もスウェーデン企業も、この直行便を強く望んでいました。両国の関係をこれまで以上に深め、交流を促進してくれる非常に大きな一歩だと感じています。

A:実は私が幼かった頃、父がよく日本で仕事をしていたんです。スウェーデン企業に勤務していましたが、日本でビジネスをしていて出張に出かけていました。いつも日本のお土産を持って帰ってきてくれ、“一緒についていってみたい”と思っていたのがこの国へ興味を持ったきっかけ。そんな願いが叶いやすくなったのは、すばらしいことですよね。

──日本に来てみて、最も印象に残った文化的特徴とは?

A:まずはやはり食べもの。それから、日本の人々の礼儀正しさや独特のふるまい方ですね。私にとって日本は“調和”の国。これまで祖国に加えアフリカやベトナムなどいろいろな国に住んだことがありますが、そのどことも異なり、日本の社会は非常に調和が取れていると感じます。みんなが互いに快適であるように尊重しあおうとする姿勢が、とても素敵です。

P:駐在中は日本語も少し覚えましたし、スウェーデンに帰国した当初はいかに自分が日本人っぽくなっているかに驚かされることが多々ありました。食事の前に「いただきます」と挨拶をするほか、赤信号をきちんと守って、道路を渡るとか(笑)。ちょっとした所作の美しさに気づくようになったとも思います。

A:美意識も素敵ですよね。欠けた陶磁器を漆で接着して金属粉で装飾する金継ぎのように、壊れたものを捨てず、手をかけてさらに価値を高める文化が日本にはある。浮世絵も本当に美しくて大好きです。そして、日本を離れていちばん恋しいのは……温泉です。日本にいた頃はすっかり“温泉ハンター”になって、日本中をめぐりました。

P:秋田県から白神山地を訪れたときは、長い週末休みを取って何ヵ所も温泉をめぐり、帰りは新幹線からそのまま職場に向かったこともありました。体から温泉の香りがしていたらしく、秘書に「大使、いったいどこに行ってたんですか?」と聞かれたことも。

A:スウェーデンにはサウナ文化があるので、みんなと裸でお風呂に入ること自体に大きな抵抗はなかったです。サウナは長く入っていると頭まで熱くなってしまうけれど、温泉は熱いお湯に浸かっても頭がスッキリしていて、とっても快適ですよね。

ジャズや伝統音楽……ハーモニーが繋ぐ音楽での両国交流に期待

──海外から日本を訪れる人にぜひ体験してほしいと思うのはどんなことですか?

A:大都市ももちろんすばらしいですが、日本は地方にもたくさん魅力があります。私たちが日本に住んでいた期間はちょうどコロナのパンデミックと重なったので、自粛明けのタイミングで国内旅行に行く機会がたくさんありました。広島や長崎にも行ったし、先ほど夫が話したように秋田にも。最も好きな都市は、岐阜の飛驒高山です。私たちのファミリーネームはスウェーデン語で「高い山」という意味なので、“高山には行かなきゃ”と思って。最初は友人と訪れましたが、大自然の美しい景色がとても気に入って数年後に夫と再訪したんですよ。

──日本とスウェーデンとの共通点は、どんなところにあると感じますか?

A:先ほどのサウナと温泉のような入浴文化はわかりやすい共通点ですが、音楽においても似たところがあると思いますね。私はジャズシンガーとして活動し両国を行き来しているけれど、日本ではレストランやバー、ショップなど、ライブ以外にもジャズが流れるいろんな場所があって、人々に親しまれているんだなと感じています。東京には、小さくてもマスターが何千枚もレコードを所有しているようなすばらしいジャズバーもたくさんありますしね。

P:スウェーデンにはジャズミュージシャンがたくさんいるものの、ここまで街中に浸透している感じはしないんですよ。

A:日本の伝統音楽も興味深い。友人の一人に長唄の演奏者がいて、少し教えてもらったことがあります。音符ではなく長唄と三味線の記譜法を覚えなければならないので、かなり難しかったけれど。スウェーデンにも同じく伝統音楽があるんですよ。短調の、少し哀愁がある曲調のものが多いです。日本で歌うと、言葉がわからなくても日本の人がとても楽しんでくれるのを感じます。ハーモニーが心に響くのかもしれませんね。

──今後、日本とスウェーデンにどんな交流を深めていってほしいとお考えになりますか?

P:そうですね。両国の関係はもう150年以上続いていて、19世紀後半にはすでにスウェーデンの企業が日本に来ていました。そうした長い国交の歴史を大切にしながら、製品の販売だけでなく研究に開発、イノベーションなど、幅広い分野で協力が進むとよいなと思います。

A:私は、音楽分野での協力がもっと増えてくれたらうれしい。クラシックはもちろん合唱やジャズ、ヘビーメタルに至るまで、お互いに学べることがたくさんありますから。スウェーデンのミュージシャンは数多く日本を訪れていますし、2025年はスウェーデン放送合唱団や、御年98歳になる著名な指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットさんも来日公演を成功させました。ジャズの交流も、もっと活発にできるはず。個人的には特に、日本のジャズをスウェーデンで紹介してみたいですね。

写真 嶋崎征弘
取材・文 山下美咲