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伝統と革新の折衷から生まれた“ネオ大正浪漫”の描き手

伝統と革新の折衷から生まれた“ネオ大正浪漫”の描き手

CULTURE ART

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キュレーター米原康正氏が今の時代に注目するアーティストを紹介する本企画。第15回は大正浪漫を独自の世界観で表現するイラストレーター朝際イコさんをご紹介します。

「暮らしや、暮らし」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2021年

着物姿の朝際イコと初めて会った時、彼女の描いた作品は全て彼女自身がモデルであることにすぐ気がついた。大正時代、日本文化と西洋文化との折衷から新しいムーブメントが生まれ、人々はその甘美で抒情的でロマンチックで自由な時代を楽しんだ。大正浪漫とは後年その時代を意味する言葉として誕生した。彼女の作品と佇まいはまさにこの時代を蘇らせる。別に生き方を時代に合わせる必要など少しもない。時代などとは関係なしに自分の生きやすい価値観を選べばいいだけの話なのだ。(米原康正)

『好きなものを全面に出そうと思ったら、大正時代だった』

1枚目「喫茶あさぎわ」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2023年
2枚目「夢二的黒猫や」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2021年
3枚目「刃」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2021年

米原(以下米):朝際さんが絵を本格的に描き始めたのはけっこう最近なんだよね?

朝際(以下朝):そうなんです。小学生の頃からよく絵は描いていて好きでしたが、仕事として描き続けようと思ったのは2021年からでした。

米:そこから今に至るまで、大正時代に影響を受けた作品を描いているけど大正時代をモチーフに選んだのはどうして?

朝:好きなものを全面に出してやっていきたい、と思ったからですね。私は高校生の時からバンド活動をしていたんですが、“売れるための努力”をし過ぎてしまったなという反省があるんです。売れることを意識し過ぎて、自分がなんで音楽が好きだったのか、音楽でどういうことをやりたいのかがわからなくなってしまって……。

そういう経験があったので「今度は逆に自分が好きなものを突き詰めてやっていけば上手くいくんじゃないか」と思ったことが絵を描き始めたきっかけです。

加えて、離婚をしたことで無意識に我慢をする日々から解放されて「自分が好きなことをやろう」と思っていたタイミングでもありました。

そんな時に、祖母が亡くなり遺品の着物を受け継いだことで「そういえば私って古いものが好きでずっと集めていたじゃん」と気づきました。そこから何が好きなのかを言語化していくと、自分は大正時代がすごく好きだなと初めてちゃんと認識できたんです。

米:朝際さんは大正時代のどんなところに心惹かれるの?

朝:私は戦前の日本では、大正時代が一番脂が乗っていた時期なんじゃないかと思うんです。政治的には帝国主義の時代に、欧米列強に植民地にされまいと日露戦争で勝った後でありますし。

文化的な部分でも大正時代は、明治時代に入ってきた西洋文化をうまく日本的なものと合わせてちょうどいい塩梅に独自の文化を生み出していたと思います。

あとは関東大震災があって、一度リセットされたところからもっといいものを作ろうという動きが時代的にあったと思うんです。カフェーの文化も震災の後に盛り上がったんですよ。

米:モガも大正時代だっけ?

朝:そうです。ショートカットに洋装というスタイルが出てきたのも大正時代ですね。そういう新しいものを楽しんでいる雰囲気がすごく好きです。

米:大正時代に女の子を合わせたのは?

朝:当時はファッショナブルなイラストが流行っていましたが、自分が好きなものを描かないと続けられないだろうと思って。

自分は手塚治虫先生や水木しげる先生みたいな丸っこいキャラクターを描くことが好きだし、女の子を描くことも得意だし、ということで今のようなテイストになりました。

米:そうして描いた和装におかっぱ頭の女の子が日本刀を持った「刃」をSNSにアップしたらバズったんだよね。当時の反響はどうだった?

朝:あの時は多くて1日に1000人ペースでSNSのフォロワーが増えていっていたこともあって、反響はすごくありましたね。

でも、ただ絵をSNSに載せるだけじゃなくて更新を頻繁にするとか、描くテーマを絞って自分がどんな絵を描いている人間なのかわかりやすくするとかも気をつけて、バズるまでは辛抱強く描き続けようと思っていたので……。思ったより早めにそのタイミングが来てくれたと感じました。

『浮世絵の質感と色使いを参考に』

1枚目 「ネオ大正浪漫」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2021年
2枚目 「彼岸」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2021年
3枚目 「千客万来」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2022年

米:朝際さんの作品は質感や色使いが特徴的だと思うけど、どんなことを意識して描いているの?

朝:浮世絵っぽい質感にしたくて仕上げにノイズを乗せています。グラデーションの色合いもフラットにしたくて浮世絵を参考にしているところがありますね。

厚塗りに憧れはあるんですが、まぁ描く根気がなくて(笑)。でも、この浮世絵的なフラットな色の塗り方と大正時代という日本的なテーマがマッチしているとも思っています。

米:色使いについては日本的なくすんだ色合いでありつつカラフルさもあると思うけれど、それはどうして?

朝:色選びはすごく感覚的にやっている部分が多いです。なんというか、ものがあるとそこに色がたくさん見えるんですよ。たとえば、白でも光の加減で青が見えたり黄色が見えたり薄いピンク色っぽいのが見えたり。

そういう色は普通だったら塗らないとは思いますが、絵に当ててみると面白くてどんどん取り入れています。でも最近はそういう色の感覚が少し鈍くなっているのか色塗りの面で伸び悩みを感じていて……。なので色の勉強をしています。

ランダムに3色を提案してくれるサイトがあるんですけど、そこで出てきた配色を試したり、カラーサークルで明度や彩度を確認しながら描くことで色の知識を脳みそに入れるようにしていますね。

米:作品で女の子が着ている着物の柄もユニークだけど何か参考にしているの?

朝:着物は「Pinterest」で昔のモノクロ写真を検索して見つけたものや、アンティークショップで見つけていいなと思った着物を参考にして描いているんです。あとは自分で持っている着物の柄を描くこともあります。

米:大正時代の着物はけっこう面白い柄があるんだよね。

朝:そうなんです。私も持っているんですけど、パズルみたいな柄の着物があったり。こんな時代にこんな新しい感覚があったのかと驚かされます。

『日本の伝統技術をもっと学んだ上で関わっていきたい』

1枚目 「菊一文字則宗改」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2022年
2枚目 「天照」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2022年
3枚目 「月読」CLIPSTUDIOPAINT、アイビスペイント2022年

米:朝際さんの描く女の子はかわいいけどキリッとした表情で「強さ」があるよね。それは意識して描いている?

朝:ありがとうございます。たぶん、無意識的に自分が「こうありたい」というところが絵になっているんだと思います。

すごくざっくりした言葉で言うと「なめられたくない」ということだと思うんですけど……。

なんだろう。バンドをやっている頃から、同性の子に私みたいになりたいと思ってもらえたらと、その子たちが何か始めるきっかけになる人間になれたらと思っていて。

そう考えた時に、自分が憧れる女の子像として強い凛とした女性像ができたのかなと思います。それが自然に絵に出ているのかもしれないですね。

米:今後、こういうことをやりたいっていうイメージは何かある?

朝:イラストレーターとして個展など現場での活動を増やしていきたいとか、アナログの作品をもっと作っていきたいとかはあるんですけど、なにより日本の伝統的な文化や技法とちゃんとコラボできるようなアーティストになりたいと思っています。

たとえば、いつか着物のデザインをしたいですし、作品を浮世絵の彫り師さんに彫っていただきたいですし……。

今の時代にはメジャーでなくなってしまった日本伝統の技術をもっと勉強して、その上で関わっていきたいなと。

米:伝統技術も使われないとなくなっちゃうもんね。朝際さんが一番興味がある日本文化はなんだろう?やっぱり着物?

朝:着物ですね。今年は全然勉強する時間が取れなかったので、来年に向けて着物の文様の本を買いました。

今の私の作品は「かわいい」「なんかいいな」で完結していると思っていて、それも魅力ではあるもののこれからはもっと作品に意味合いをつけていきたいと思っています。

着物の良さって、いろいろな柄があってその柄に四季をこめたり何か意味を持たせたりできるところなのでそれを絵にしていきたいです。もっと着物を掘り下げて描いていきたいですね。

Yasumasa Yonehara

熊本県出身。『egg』を創刊したガールズカルチャーの第一人者で新たな才能の発掘を行うアートキュレーター。2023年には阪急メンズ東京7階に「DA.YO.NE.ギャラリー」、原宿とんちゃん通りに「tHE GALLERY HARAJUKU」などのギャラリーを開きアーティストの発信をしている。
https://www.instagram.com/yone69harajuku/
https://twitter.com/yone69harajuku

朝際イコ

1991年生まれ。東京都出身。2021年より本格的にイラストレーターの活動を開始。女給、メイド、日本刀、伝統玩具など戦前戦後問わず日本的なモチーフをビビッドな色合いで描いた「ネオ大正浪漫」的な表現が特徴。イラストのほか、アニメーションや漫画でも独自の世界観を表現している。
https://www.instagram.com/icoasagiwa/
https://twitter.com/IcoAsagiwa

取材・文 米原康正
編集 藤沢緑彩