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樹齢千年の銘木。四季を通じて観察し描いた橋本明治~日本画聖地巡礼12福島

樹齢千年の銘木。四季を通じて観察し描いた橋本明治~日本画聖地巡礼12福島

CULTURE MUSEUM

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日本画専門美術館として半世紀以上の歴史を誇る『山種美術館』。本連載は同館の山﨑妙子館長をナビゲーターに、傑作が生まれた〝聖地〟を巡る。名画の世界を追体験し、その地に立った画家たちの視点を再発見していく。(全12回)

『朝陽桜』橋本明治×福島・三春滝桜

橋本明治『朝陽桜』1970(昭和45)年 紙本・彩色・額(1面) 181.5×162.0cm 山種美術館

ご覧いただいているこちらの作品。画面いっぱいに咲いているのは「三春滝桜(みはるたきざくら)」と呼ばれる紅しだれ桜です。福島県田村郡三春町にあり、樹齢は1000年以上とも。「根尾谷淡墨桜(ねおだにうすずみざくら)」(岐阜県本巣市)、「山高神代桜(やまたかじんだいざくら)」(山梨県北杜市)とともに、日本三大桜の一つに数えられています。

作者は日本画家の橋本明治です。明治が最初に三春滝桜を描いたのは、1968(昭和43)年のこと。この年、皇居に新しい宮殿が建てられ、その室内装飾を名だたる日本画家たちが手がけました。明治もその一人で、正殿(せいでん)東廊下の杉戸絵を担当し、三春滝桜を題材とした『桜』を制作したのです。

宮殿が完成した後、室内装飾を目にする機会に恵まれ、深く感動した人物がいました。それが、当館創立者の山﨑種二(やまざき・たねじ)です。
種二は一人でも多くの人が宮殿の作品を楽しめるようにという思いから、安田靫彦(やすだ・ゆきひこ)、山口蓬春(やまぐち・ほうしゅん)、上村松篁(うえむら・しょうこう)、東山魁夷(ひがしやま・かいい)をはじめ、宮殿装飾に従事した画家たち一人ひとりに同趣の作品の制作を依頼しました。

明治もまた依頼を受け、杉戸絵『桜』と同趣向の作品を制作します。それが今回紹介する『朝陽桜(ちょうようざくら)』なのです。明治によると、宮殿の杉戸絵は中庭を隔てて遠望されることを考えて、大まかな装飾的要素を強調しました。いっぽう、本作品は美術館の展示室で鑑賞されることを考慮し、幹や枝も幾分細やかに表現したと言います。

ところで、明治はなぜ三春滝桜を選んだのでしょうか。
皇居宮殿の杉戸絵を制作するにあたり、明治はモデルにする桜を探し始めますが、最初に訪れたのは、じつは三春町ではなく、有名な桜の多い京都でした。しかし、なかなかぴんとくる桜には出会えず、親交があった日本画家の福田平八郎(ふくだ・へいはちろう)に相談します。すると、桜は東北が素晴らしいという助言があり、東北に取材へ。会津若松に住む弟子から三春滝桜という桜があるのを聞いたと言います。

満開の三春滝桜(写真:genki/PIXTA)

明治は滝桜を写生するために四回にわたり三春町を訪れています。「まず雪の降る冬に行った。枝ぶりが克明にわかった。ついでつぼみの時を見、花の盛りに訪れて、スケッチした。最後に葉桜をみて下絵を完成した」と述べており、満開の姿だけではなく、滝桜のさまざまな時期の姿を見て写し、桜の細部まで捉えようとしていることがわかります。
私たちも花盛りではない桜を見に行くと、何か新しい発見があるかもしれませんね。
(山種美術館学芸部)

はしもと・めいじ

1904年、島根県生まれ。本名・明治(あけはる)。東京美術学校卒業。松岡映丘(えいきゅう)に師事。在学中に帝展に初入選、以後官展に出品。1940年、法隆寺金堂壁画模写主任。1948年、創造美術の結成に参加するが、1950年に脱退し日展に復帰。1971年、日本芸術院会員。1974年、文化勲章を受章。肉太の線描に縁どられた人物画に独自の様式を確立した。1991年没、享年86。

三春滝桜

福島県田村郡三春町大字滝字桜久保296
アクセス:JR三春駅より車で約10分
1922(大正11)年、桜の木としては初めて国の天然記念物に指定された名木。開花期には四方に伸びた枝から、薄紅色の小さな花を無数に咲かせ、その様はまさに流れ落ちる滝のように見える。
https://miharukoma.com/experience/183

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やまざき・たえこ

慶應義塾大学経済学部卒業。東京藝術大学大学院後期博士課程修了。学術博士。在学中は日本美術史を学ぶとともに日本画家・平山郁夫氏に日本画の手ほどきを受ける。2007年5月、山種美術財団理事長兼山種美術館館長に就任。著書『速水御舟の芸術』(日本経済新聞社)ほか。各所での講演会などを通し、日本画の普及を幅広く行っている。

【特別展】日本画聖地巡礼―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―

「山種美術館では、名だたる画家たちが制作のために自ら訪れ、描いた実在の場所を日本画の『聖地』と位置づけ、その地がどんな場所なのかを写真や地図などでご紹介し、作品とともにご鑑賞いただく展覧会を開催いたします。現地での写生や画家自身の言葉も合わせて展示し、画家の『聖地』への眼差しを追体験していただくのみならず、なぜ実際の風景とは異なる構図や色調にしたのかなど、作品に込めた想いを再発見していただきたいと思います」(山種美術館 館長・山﨑妙子)

会場:山種美術館 東京都渋谷区広尾3-12-36

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)(9時~20時)

会期:2023年9月30日(土)~11月26日(日)

休館日:月曜日※10/9(月)は開館、10/10(火)は休館

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)

入館料:一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です)

https://www.yamatane-museum.jp/index.html

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案内人:山﨑妙子(山種美術館 館長)