アーティスティックに再生したキングスクロスの倉庫街〜古くて新しい、イギリスのアンティークな街2
世界でも突出した歴史と伝統を有しながら、つねに華やかな文化の中心地でありつづけるイギリス。ロンドンをはじめとする都市部では、最先端の事物を取り入れつつも、古き良き建築を巧みに維持して次世代へとつなげていく街づくりが自然に行われている。『ハリー・ポッター』シリーズでおなじみの主要ターミナル、キングスクロス駅周辺は、昨今フォトジェニックなショッピングエリアに変容。やみくもに新しいものを追うばかりでない、人のつながりや温かみが感じられる店のラインナップにも注目したい。
ロンドンらしい景観を、時代に合わせてさらに住みよく
ロンドンの玄関口であるキングスクロス駅周辺は道路と鉄道、運河が交錯する要衝。19世紀半ばには石炭や穀物、ジャガイモなどの物資がイングランド北部からこの地へと運ばれ、産業と交通の重要な拠点となった。それで文字どおり“運んできた石炭を荷降ろしする場所”を指し「コールドロップスヤード」と呼ばれるように。そんなかつての石炭倉庫が時を経て、エッジのきいた他に類を見ないローカル発のインディペンデントなブランドや店舗を中心に据えるショッピングモールとして再生。ほかにも穀物の貯蔵庫がロンドン芸術大学のキャンパスとなるなど、20棟もの歴史的建造物が華麗に変貌を遂げ、市民の新たな憩いの場となっている。
日本では丸いイメージのあるガスの貯蔵タンクのシェイプは、イギリスでは円柱形が定番だという。その名も「ガスホルダー」といい、「コールドロップスヤード」のすぐ裏手に長年佇んで、ロンドンのなじみ深い景色を描く要素のひとつとされてきた。そちらはなんと、高級集合住宅と公園に。国の指定建造物として保護された産業遺産の骨格が、昔ながらの風景を現在に伝えながら圧巻の直線美を描く。
Coal Drops Yard
写真:松園多聞 コーデ ィネーション:井上亮、長谷川友美 取材&文&編集:山下美咲