スロバキアの春を祝う“水のイースター” 歌と水の祝祭
中欧の要衝として、さまざまな文化の影響が重なり合ってきた歴史を持つスロバキア。日本からの直行便が発着するウィーンからわずか1時間程度で足を延ばせる好立地にありながら、この国には素朴で端正な街並みと、澄んだ空や大地がどこまでも広がっている。中でも春を告げるイースターの時季には、男性たちが女性へ水を掛けて祝福を送るという、民話のような風習が。その様子を通して、人々の中に息づく郷土愛の姿を捉える。

東西に連なる山脈が国土を横切るスロバキアでは、その地形を利用して築かれた城塞が各地に残る。かつてこの地では金銀銅や鉄、塩といった多様な資源が採掘され、それらを近隣国へ運ぶ道筋に沿って町や砦が築かれていったとか。


また近代以降も工業化や商業化が緩やかだったことから、今なお風光明媚で牧歌的な雰囲気が漂う。そうした環境のもと、人々は厳しい冬越えの先にある実りの季節を慈しみ、質素で丁寧な暮らしを受け継いできたのだ。


春の訪れを告げるキリスト教圏の祭日に、イースターがある。十字架にかけられ亡くなったイエス・キリストの復活の喜びを分かち合う日で、人口の約6割がローマ・カトリックを信仰するスロバキアでは非常に重要な祝日のひとつだ。



さらに地方によっては、キリスト教伝来以前からこの地に根づいているという、スラブ民族の習慣に由来する行事も。「オブリエヴァチュカ」と呼ばれるこの慣わしでは、男性たちが近所の女性の家を訪れ、水をかけることでその年の健康や幸運を願うそうだ。少し形を変え、柳の枝で編んだ鞭でお尻を叩く地域もあるというから興味深い。
国内でも特に伝統工芸や舞踊が盛んなスロバキア中部のデトヴァという町で、地元の舞踊団である「フォルクロールニー スーボル デトヴァ」の青年たちを訪ねた。羊革のジャケットやウールの帽子、そして色とりどりの伝統的な刺繍が施されたブラウスやエプロン、スカートを身につけたその姿は、美しく彩られつつも凛々しさが引き立つ。その手には水をいっぱいに汲んだバケツが……。

列をなして向かう先は、同じ舞踊団に所属する少女たちの家。この日、彼女たちはひとつの家で待機しており、呼ばれると笑みを浮かべつつも恐る恐る外へ出てきた。なんと、中には逃げようとする子も! すかさず青年たちがあとを追い、春を迎えて青々と色づきはじめた芝生の上でしばし追いかけっこが繰り広げられたのち、捕らえられた少女たちには思いきり水がかけられた。
その後は、訪ねた家の中やテラスに移動して酒宴が始まる。家内の女性たちにこの先一年の健康や幸運、若さや美しさをもたらしてくれたことへの礼として、このように来訪者をもてなすのだ。くつろいでいると、また別の一団が。こちらは少女たちの高校の同級生の男の子たちだそうで、少女たちは彼らにもまたバケツ入りの水をお見舞いされていた。今度はお母さんまで外に呼び出され、派手にバシャー! この日の女性たちは、着替えが何枚あっても足りなさそうだ。
地酒や軽食が振る舞われる傍らで、アコーディオンとバイオリンの奏でる軽快ながらも抒情に満ちたメロディが、山々に囲まれた春の風景にこだまする。そうしてグループや世代を問わずその場に居合わせた全員が、伴奏に合わせて高らかに民謡を歌うのだ。「こうした歌や踊り、伝統的な衣装は私たちの一部であり、文化そのもの。きっと日本の皆さんにとっての着物のようなものでしょう」と、舞踊団の代表を務めるラドヴァンさんが教えてくれた。「幼い頃からこの光景に慣れ親しんで育ったため、衣装を身につけると安心感を覚えます。コミュニティの強さを感じ、その価値を実感するのです」


誠実で忍耐強く、朴訥であると称されるスロバキア人。「私たちの国には歌と踊り、あとは自然くらいしかありません」と謙遜の笑みを見せるが、それこそが人々を連帯させ、美しい国土へと結びつける愛着の源となっているようだ。訪れる先々で触れる温かな心配りもまた、この国の風景の一部。



季節行事には民族衣装を身につけて祝福し、仲間や家族と時を重ねた喜びや悲しみを分かち合う──そんな生き方が、豊かな感情を育む絵本のように、そっと心の琴線へ触れるはずだ。
写真 伊達直人
コーディネーション ヴィツィアン邦子
取材・文・編集 山下美咲
<スロバキアへの翼>
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