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「絵本のような国」スロバキアで出会う物語を守る人々

「絵本のような国」スロバキアで出会う物語を守る人々

TRAVEL 2026.06 スロバキア特集

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中欧の要衝として、さまざまな文化の影響が重なり合ってきた歴史を持つスロバキア。日本からの直行便が発着するウィーンからわずか1時間程度で足を延ばせる好立地にありながら、この国には素朴で端正な街並みと、澄んだ空や大地が広がっている。この国の風景がまるで絵本のように感じられる理由は、いったいどこにあるのだろう──児童文学や手工芸を社会の財産として守りつづけてきた、歴史と思想をひもといていく。

芸術の可能性を拡げ、伝統を日常の中に生かす

スロバキアの“絵本のような風景”とは、偶然の産物や主観ではない。この国は児童文学芸術や伝統工芸の価値を重んじ、次世代へ繋げる活動を精力的におこなっている。例えば子ども向けの芸術や文化活動を支援する「ビビアナ」は、60年代後半から続く「ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)」の運営団体として誕生し、国際的な振興活動に取り組んできた。児童向けのアート展示を企画するほか、過去の応募作品の原本を保管し、その蔵書数は2万冊にのぼる。

なぜ“絵本芸術”だったのか。その理由は当時の社会情勢にある。1948年より共産主義体制下に置かれたこの国では、アーティストによる自由な芸術表現や国外での見聞拡大が難しくなった。だが、児童文学には一定の保護と支援が与えられ、子ども向けの絵本の挿絵は許可が下りやすかったことから、多くの才能がこの分野で盛んに活動するようになったのだ。

「当時の国民は“鉄のカーテン”の存在により、国外へ自由に出ることができませんでした。しかし、彼らはしだいに“世界のほかの国々でどのように児童書のイラストが描かれているのか見てみたい”と願うように。それが、世界中のイラストレーターが参加できるコンペティションを自国に設立するというアイデアへ繋がりました。つまりBIBは、世界と接点を持つために立ち上げられたのです」と、館長のペトラ・フラッハさんが教えてくれた。

「その成り立ちの性質から、BIBは厳格に優劣を競うよりも、主にアーティスト同士のコミュニケーションやネットワークづくりへ重きが置かれる場に。非政治的な立場を保ち、体制から独立した活動を続けられたことは奇跡であり、人々が夢を持つ支えにもなりました」

BIBIANA

Panská 41, Bratislava
https://www.bibiana.sk

スロバキアで絵本のような風景が保たれてきたもうひとつの要因として、物語に描かれるような昔ながらの手仕事が大切にされてきた背景もある。戦後に設立された「ウルーヴ」は、民俗芸術やその伝統を支援するべく、職人とデザイナーを結びつけることで新たな価値を生み出してきた。

第二次世界大戦後、古くから受け継がれてきた技術に対する賞賛の念が広まる一方で、都市部と農村部の生活が徐々に乖離し、よりモダンな生活に合ったものが求められるように。当時は戦後の混乱の中で市場が実質的に機能していなかったこともあり、国が職人たちをサポートし、彼らのための販売網を構築するシステムが立ち上げられたというわけだ。また、人々の生活の変化にともなって消えゆく伝統技術を調査し、記録を残す役割も果たしてきたという。

「現在はさまざまな職人たちと協業して形やデザインの革新を後押しするほか、各地のギャラリーで工芸品を紹介。そのほか定期的にイベントを開催しながら、伝統工芸に興味のある若者など誰もが受講できるスクールも運営しています。現代のニーズに応えられるよう職人を支援するという目的からシフトして、徐々に文化的な側面が重視されるようになってきていますね」と、統括責任者のエヴァ・シェフチコヴァさんは言う。

「ハンドメイドは今でこそ世界のトレンドですが、スロバキアでは文化そのもの。ごく普通の生活の中に、美しさが根づいていると思います。技術育成はもちろん、それを博物館や美術館に飾られるだけではない、実用的な“生きた形”として未来へ継承していくことが私たちの使命です」

ÚĽUV

Obchodná 64, Bratislava
https://uluv80.sk/
https://uluv80.sk/en.html(英語版)
Instagram @uluvslovakia

写真 伊達直人
コーディネーション ヴィツィアン邦子
取材・文・編集 山下美咲

<スロバキアへの翼>
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