色鮮やかな手仕事に宿るスロバキアの土地の記憶
中欧の要衝として、さまざまな文化の影響が重なり合ってきた歴史を持つスロバキア。日本からの直行便が発着するウィーンからわずか1時間程度で足を延ばせる好立地にありながら、この国には素朴で端正な街並みと、澄んだ空や大地がどこまでも広がっている。そんな人々の暮らしを童話の一場面のように彩るのが、美しく彩られた工芸品の数々。その中から、特にこの国ならではの豊かな感性や暮らしの記憶を今に伝えている、陶器や刺繍、レース編みを紹介しよう。
物語を紡ぎ出す、色彩豊かな手仕事の美
スロバキアの人々の暮らしを彩る伝統工芸。特筆すべきは、その鮮やかで多彩な色合いだ。首都のブラチスラバから北東30kmほどのところにあるモドラでは、色とりどりの陶器が特産品。中でも最大規模の工房である「スロヴェンスカ ルドヴァ マヨリカ」の興隆が、この地を陶芸の里として国内外へ知らしめた。その起源は、スイスなどから再洗礼派の人々が移住してきた17世紀に遡る。

「彼らにより技術が伝えられましたが、当初は赤色の使用や、人物・動物の描写が禁じられていました。のちにそれらがモドラで自由に花開いたのです」と、ここで長年マイスターとして働くユライ・ハヌリークさんが解説してくれた。
学校の職業見学で工房を訪れ、その美しさに感銘を受けて職人を志したという彼。「モドラ焼きには詩的でお伽噺のような世界観があり、筆の下からさまざまな模様が軽やかに生まれていく様子を見て、完全に魅了されました」
Slovenská Ľudová Majolika
https://www.majolika.sk
色と形に宿る、集落の個性

女性たちによって受け継がれる刺繍やレース編みもまた、多様な色の掛け合わせと華やかさで知られている。イヴェタ・スミレコヴァさんと娘のソーニャ・スタンチコヴァさんは、中央スロバキアのデトヴァで4世代にわたり刺繍店を経営。集落ごとに異なるデザインの知識を授けるレッスンも取り仕切る。


花や植物、星などの題材が抽象的な模様に落とし込まれ、集落のほかに冠婚葬祭や性別、婚姻の有無によっても身につける色柄が分けられた。かつてはその意匠に、クルミやタマネギの皮など、自然の材料で染色した糸が用いられたとか。
「服や室内装飾で家の中を明るく楽しく見せたいという思いから、これほど豪華に刺繍が施されるようになったのです」と、イヴェタさん。「現代ではルールにこだわらない考え方もありますが、伝統を知識として身につけ守らないと、誰も本来の形がわからなくなってしまいます」
Dlu
https://dlu.sk


同じく中部出身のカタリナ・クルシチョヴァさんが、この国の伝統工芸を支える機関である「ウルーヴ」のバンスカー・ビストリツァ支店で伝えるのは、レース編みの技術だ。炭鉱地域に移り住んだドイツ系移民から伝播し、徐々に色彩が加えられて、絢爛な意匠が生まれた。

手編みのレースは服やテーブルクロスなどに使われるが、やはり用途ごとにパターンが異なる。「農業ができなかった山あいの集落では、ほとんどの女性がこれを生業としてマスターしていました。私にとっては昔を偲ぶノスタルジックなものであり、リラックスして平穏な気持ちになれる休息の方法でもあります」
さらにカタリナさんはこう続ける。「昔は母から娘へ、娘から孫へと伝わっていましたが、今は担い手を見つけるのが大変。貴重な技術が埋もれてしまわぬよう、きちんと後世の人に残すことがとても大切だと感じます」
周辺を多くの国に囲まれたスロバキアだからこそ、こうした土地ごとの独自性の尊さが特に重んじられるのかもしれない。
ÚĽUV Banská Bystrica
写真 伊達直人
コーディネーション ヴィツィアン邦子
取材・文・編集 山下美咲
<スロバキアへの翼>
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