メキシコを代表する建築家、パラガンさんの世界遺産の家〜メキシコ、マヤブルーの不思議-2
今回のメキシコ特集はマヤの人々が残した特別な色、AZUL MAYA=MAYA BLUEにこだわる旅。しかしながら、メキシコで目にする魅力的な色はマヤ時代のものだけではない。現代においても刺激的でワクワクする色使いが街に溢れ、生活の中に取り込まれている。
たとえば20世紀のメキシコ建築を代表する建築家、ルイス・バラガン邸。個人宅でありながら世界遺産でもあるこの家は、建築やデザインに興味のある方なら知っている人も多いのではないだろうか。
コンクリート打ちっぱなしの壁に小さく設けられた扉を開けると、外観から想像できない色使いと計算され尽くした光の導線が目を楽しませてくれる。
ドアを入った瞬間から光の演出にヤラれてしまう。外部からの侵入を拒むかのような大きな壁に取り付けられた小さなドアから入ると、ドア上部の小さな窓から差し込む光が冷たい火山岩の廊下に反射し、温もりを与えている。手前の白い壁が淡くピンクがかって見えるその理由は、玄関の入口突き当りにあるピンクの壁の反射効果によるもの。
あえてドアの窓を大きくせずに、光を光線のように差し込ませることで、時間によって差し込む光の角度が異なり、それにより反射するピンクの位置も移動するという、計算され尽くした壁と光の演出なのだ。
玄関の廊下を抜けると2階へと上がるスペースに。そこもまた、上部に取り付けられた小さな窓から差し込む光のみだが、階段の突き当りの壁に掛けられたゴールドの絵画(ドイツの画家、Werner Mathias Goeritz Brunnerの作品)に光が反射し、優しい光で包まれている。
「狭い空間に宇宙がなくてはならない」という考えを持つバラカンさん。狭い庭を広く感じさせるように、植栽の配置、高さに気を配り隣の家の庭と繋がりをもたせたり、室内の天井を高くしたり、上部に空間をもたせることでスペースに広がりをもたせるなどの工夫が見られる(とはいえ、総面積約1,100㎡。十分に広い空間の家と敷地なんですけどね)。また四角を重ね合わすように連続させることで奥行きを感じさせるといった(自分のような素人には説明されないと気付かないのだけど)、計算され尽くしたデザインが施されている。
屋上に設けられた空間の壁に施されたピンクとブラウンとグレーというなんとも大胆な色使い。これこそメキシコの光がなければ成立しない組み合わせではないだろうか。
バラガンさんの仕事場と自宅を見学して個人的に思うことは、一つ一つは単純なものだとしても、素材と組み合わせと光と色の計算次第で素晴らしい空間を作り上げることが可能になるということ。
実際ほぼ全ての部屋はスクエアなものだし、インテリアや家具に使われているものは皮、ガラス、木といった自然素材のものばかり。
メキシコの素材と光と色彩感覚が作り上げた素晴らしいバラガン邸。写真で見るより自身の目で是非確かめてほしい。
取材・写真・文:山下マヌー