イスタンブールの隠れた名所 カドキョイ市場でオリーブや珍味を食べ比べ
イスタンブールの路地は、まるでタイムカプセルのように異なる時代や文化を詰め込んだ空間だ。それぞれの路地が、色とりどりの歴史や人々の記憶を刻み込んでいる。例えばクズグンジュック。ここは15世紀からのユダヤ系、キリスト教系、イスラム教系の人々が共に暮らしてきた場所だ。オスマン帝国時代から異教徒が肩を並べて生活するのが普通だった、そんな信じられない時代の名残が今も残るエリアである。
クズグンジュックの路地に家々は、カラフルな外観が特徴的。多様な文化や宗教が集まり、それぞれが持つ色彩を住宅の外観に反映しているといわれる。このエリアの名物の一つがきのこの形に似せた、「きのこパン」。小麦粉もバターも使わず、ナッツとドライフルーツだけで作られている。100年も前から変わらぬ製法で焼かれたこのパンは、遠くからわざわざ買いに来る人も多い。
バラットもまた、路地文化を映し出している地区である。古い建物が多く残るこのエリアは治安のよくない場所とされていた。ところが独特の街の景観が活かされ、ドラマの舞台になったことで若者の間で注目されるように。古びた家屋をリノベーションして、カフェやバーに姿を変えたことで観光客が集まる場所になった、新旧のトルコ文化が一つの空間で交わり、不思議な雰囲気が漂っている。
一方、カドキョイは「庶民の台所」ともいえるエリアだ。タクシム広場の喧騒を避けたいローカルたちが訪れるこのエリアには、野菜やスパイス、オリーブなどの市場が並ぶ。とくにオリーブはトルコが世界一の生産量を誇り、数種類のオリーブが試食できるのも魅力の一つだ。また、山羊の頭やピクルスといった珍しい食材まで手に入るので、地元の人々が日常的に訪れる場所として活気にあふれている。
クンジュクジュクやバラット、そしてカドキョイ。これらのエリアは、それぞれ異なる表情を持ちながらも、イスタンブールという街の豊かな歴史と文化を感じさせる。まるで異なる時代や場所に迷い込んだような感覚を味わえるイスタンブールの路地。それは、ただの通りではなく、この街の歴史と文化が凝縮された「生きた博物館」ともいえるのだ。
取材・文・写真 山下マヌー