「お金持っていないので」はもう通じません〜幽玄の入り口El Nido-4
キャッシュレス先進国とは決して言えない日本。香港ではパスモやスイカのような交通系カードは、日本より数年前から導入・普及されているし、バンコクでは屋台でさえカードが使える。シンガポールでは(他の国でも同様に)日本のように「1000円以下はカードお断り」などと、無粋なことをいわれることもない。旅をするたび、日本の数倍も速く進んでいる世界のキャッシュレス化のスピードを実感する。そしてまた、今回、エルニドの海に浮かぶ無人島のビーチで、キャッシュレス化の速度を実感することになった。
アイランドホッピングの途中、ボートやカヌーでドリンクなど売りに(売りつけに)来る光景に遭遇したことがある、という人は少なくないのではないだろうか。飲みものをここで買わされても困るだけだし、それに値段が町で買うより若干とはいえ、高めだったりする。(まぁ値段に関して言えば、わざわざここまで運んで来る彼らの努力と運び賃が含まれていると考えれば、納得できないこともないのだけど。山小屋では何でも高いのと同じ)。
こちらは欲していなくとも、売り手側は必死だ。なにしろ観光客から得る売上だけが家族を支える術のほぼ全てである場合が多く、前のめりで攻めてくる。ここで心優しい方なら「可愛そうだなぁ」と、なんだかよくわからない同情する気持ちが芽生えてきて、「じゃ、一本だけ」と根負けして買ってしまう。
自分のように「面倒だなぁ」「しつこいなぁ」「早く他の客のところに行かないかなぁ」と、断固として購入阻止なら、こういう場面での断りのお決まりのセリフ、「今お金持っていないので、ごめんなさい」と伝えるのが常。
「ジュースにアイス。ココナッツにウィスキーだってあるからね」と、次々出してくる。
実際、水着にTシャツという軽装で手ぶらで参加する海のアクティビティの途中に、お金を持参していないのだから嘘ではない。持っていないのは全くもって自然なことなので、このセリフは実に理にかなった(相手も納得できる)断り文句・・・だった。
しかしこれからはそれも通じないという状況になっていたのだ。
今どきは電子決済で支払えるようになっていたのだ。スマホからアクセスしてQRコードを読み込む、もしくは番号を打ち込み、料金が“支払えてしまう”のだ。
「お金がないので・・・」と告げ終わるか終えないうち、彼が涼しげな顔で見せつけてきたのがなにかの蓋の裏に書かれた番号。フィリピンで最も普及しているGCashの番号だ。「そこにアクセスすれば支払えるじゃん!」とでも言いたげな彼の勝ち誇った顔が悔しい。確かにお金はなくてもスマホはある・・・。
あ!そうだ!
「ごめん、まだGcashに登録してないから払えない!」。
これにて一件落着。
だけど、GCash払いで買ったビールを飲んでいる、隣の人が羨ましかったのも事実なんだけどね。
取材・文:山下マヌー