バリ島に移住する人が増加中 人生の概念が変わる!? 革新的な「グリーンスクール」
豊かな自然に恵まれた“神々の島”として多くの旅人を惹きつけてきたインドネシアのバリ島が今、さらなる飛躍を遂げている。世界水準の新たな文化や美意識を形成するのは、楽園を求めここへ導かれた人々。地球の未来をも見据えた有機的な生き方が、そこにはあるのだ。竹をメインに建築を手がける「イブク」による壮麗なデザインの体育館を含む竹の校舎を採用し、世界でも類を見ない革新的な教育を実践している学校を訪ねた。

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可能性を提起する新たなコミュニティの形
バリ島のジャングルの中で地球と共生し、自然の中での実践学習を通して知識を深めていく「グリーン スクール」は、今や世界中から入学希望者が殺到する画期的な教育施設だ。学内では太陽光から電力を賄い、自家農園での野菜栽培や独自の水の濾過システムで、できるかぎり自給自足を実現。授業では教科書を使わないこともしょっちゅうだという。牛や豚を飼育し生物学に親しんだり、建築やエンジニアリングを実践的に習得したりしながら、起業家精神を養っていく。時には、専門知識を持つ保護者が教壇に立つことも。ここに子どもを通わせる櫻井さんが、次のように教えてくれた。「よりよい教育のため、大人も積極的に学校運営に参加するんです。あらゆる国から多様な職種の人が集まり、ひとつの理想を追求するこの空間は、まさに世界の縮図」

櫻井さんは日本生まれで日本育ち。本人いわく、いわゆる“一般的”な学校教育を受けてきたという。大学で経営学を学び学生時代に起業を経験した彼は、我が子が生まれると“この子に最も合った教育を受けさせたい”と考えた。世界中の気になる学校を旅しながら見てまわり、進学を決めたのがグリーン スクールだったそうだ。「世の中では今後サステナブルであることの重要度がますます高まっていくと思うので、その最先端の学校に通うことが、この子の未来のためになると考えました。でもいちばんは、子ども自身が当時2歳にして真っ先に『あのジャングルの学校に行きたい!』と主張したことです」

グリーン スクールには現在、幼稚園から高校まで、40カ国以上から生徒が集まる。櫻井さんは子どもの進学のためにバリ島へ移住したが「たとえ運営において意見が食い違ってもけっして互いを否定せず最善策を探す人々の姿に、自分も価値観を新たにした」という。
「子どもだけを留学させるのではなく、保護者も一緒に越してきているケースが大半。実にさまざまな国から、あらゆる職種やバックグラウンドの人が集まっています。共通するのは、比較的時間や心に余裕のある人が多いということでしょうか。ここでの教育は革新的でユニークだからこそ“正解”がまだないのが特徴で、親も2〜3カ月に一度ほど集まり、今後の学校の方針について話し合うんです。また、こうしたオフィシャルな場以外でも“よりよいコミュニティにするにはどうすればよいか”という話を、日常的におこなっています」
育ってきた文化も背景も異なり、意見が違って当たり前のコミュニティの中で、「みんなはっきり主張はするけれど拒絶や文句がなく、あくまでポジティブで建設的」だと感じているそうだ。「子どもの教育のためにバリへ移住するくらいなので行動力がある人が多く、改善案が通ればすぐ実行されますね。学校の敷地内に保護者が待機しながら使えるコワーキングスペースがあり、僕たち親が入れる部活動も盛んで、サッカーやランニングに始まり、ヨガやピラティス、ダンス、読書クラブ……など、まるで自分も学生に戻ったかのような気分に。顧問はその道に精通した保護者が務めるケースも多いです」


念願のスクールに通っている櫻井さんの子どもは、息を吸うことと同じくらい自然にサステナブルであることが身についているそうだ。「植物や虫、動物はみんな友だち。外に出るときは水筒持参が当たり前だし、家庭ゴミは次のアートのプロジェクトの材料に。ものを使い終わったら誰かにあげるほか、使い古しをもらうことも多いです。落ち葉でドレスをつくりパーティーでダンスするといったことが日常で、商業施設へ行けば『なぜ建物がコンクリートでできているの?』と疑問を抱いていますね」
こうした生活の中で、櫻井さん自身の中にも大きな変化が生まれた。「ここへ子どもを通わせる動機は、“将来、何かしらで成功するチャンスを得てほしい”という気持ちでした。けれど今は、“成功”のものさしが必ずしも所得や財産の大小ではない、と考えるように。幸せに生きてくれること──この子が望む領域でやりたいことができ、それがなんらかの形で社会や地球の役に立つようであれば、それがいちばんなのではと感じています」

初等部の校長を務めるヴィクトリアさんも「イギリスからここへ来て、文化の多様性に深く感謝するようになった」とのこと。「同時に、私たちの最も優秀な“先生”は自然であるとも実感。この学校を歩くだけで創造性や問題解決力が高まる気が。中でも美しい竹の建物は、生徒たちの豊かな感性を養ってくれています」

Green School
Jalan Raya Sibang Kaja, Abiansemal, Badung, Bali
バリ島への翼
ANAとガルーダ・インドネシア航空のコードシェア直行便で成田国際空港(NRT)からバリ・デンパサール国際空港(DPS)まで約7時間55分。帰国便は同様の経路で約7時間10分。バリ・デンパサール国際空港(DPS)から海沿いの市街地エリアまでは車で約15分~1時間、ウブドまでは車で1時間半程度。
写真 レシールマグズ
取材・文・編集 山下美咲
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