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対馬で続く160年の宿物語 病床の母から届いた一本の電話

対馬で続く160年の宿物語 病床の母から届いた一本の電話

TRAVEL 2026.07 対馬特集

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病床の母から届いた一本の電話が、小田満さんの人生を変えた。福岡での就職を前に故郷・対馬へ戻り、漁師として、そして160年続く宿の担い手として生きる道を選んだ満さん。海の恵みを分かち合い、人を迎え、地域とともに暮らす日々。その隣には、未知だった漁や宿の仕事を支え続けてきた妻・幸美さんがいる。二人の歩みは、対馬に受け継がれる家族と地域の物語でもある。

漁師町に生まれ暮らして

「みっちゃん、対馬に帰ってきてくれん?私も家に帰って磯に出たいの」。

当時23歳だった小田満(みつる)さんは、病床の母から電話を受けた。対馬を離れ、福岡でコンピュータ会社へ内定していたが、その一本の電話が人生を変えた。もう長くないとわかっていた母の願いを聞いてしまっては、帰らないわけにはいかなかった。

満さんは、漁師の父から教わった知識や技術を生かし、34年間漁協に勤めながら家業の小田旅館を継いだ。母に、そして海に呼ばれたのかもしれない。

妻・幸美(ゆきみ)さんは農家の生まれ。結婚当時は、漁や磯仕事、約160年続く旅館を背負うこと、すべてが不安と未知だった。

背中を押したのは父の言葉「なんでも初めからできる人なんていない。大丈夫」。

身近な人々やお客様の笑顔を支える二人の姿は、人とのつながり方や家族のぬくもりに立ち返らせてくれる。

幸美さんは漁や磯仕事もベテラン。獲れたての幸は、近しい人や宿泊客と分かち合う。対馬には「おすそわけ文化」が根づき、釣った魚や収穫した野菜、狩猟で得た肉は近隣で分け合う温かい文化が受け継がれる。

食卓には対馬の恵みがぎっしり。獲れたてのレンコ鯛やイカ、エソ、ひじき、真珠貝などがずらり。満さんの魚捌きと幸美さんの料理を味わえば虜に。野菜や保存食もほとんどが手作り。

満さんの長年の知識と勘は、魚群探知機より正確だ。風や波の影響を見分けながら船を走らせる。この日は夜のイカ釣りへ。イカ釣り用ルアー「エギ(餌木)」は、代々使われる手作りのもの。今は職人がおらず入手できない貴重なエギで、よく釣れる。

巨大なアオリイカが釣れる瞬間は、エキサイティングで圧巻。対馬ではアオリイカ(ミズイカ)を狙う「ミズイカ引き」と、船から集魚灯(漁火)を焚(た)いてケンサキイカやヤリイカを狙う「夜焚き」が代表的。

撮影 Bourbon
コーディネート おだち(あつかんDRAGON)
取材・文・編集 中野桜子

<長崎への翼>
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