薪火の地釜で豆腐を作るー岡山・真庭で自然とともに生きる-2
深夜2時少し前、国道沿いにぽつんと佇む一軒家に黄色い灯りがともり、ほどなく煙突から白い煙が上がり始める。
松井美樹さんが、この地で地釜で豆腐を作ろうと思ったのは、蒜山耕藝がきっかけだったという。
この水で、この風景の中で豆腐を作りたい
もともと鳥取県出身で、就職を機に上京。インテリア輸入会社での勤務を経て、東京の豆腐店で1年半修業した。
「豆腐店として独立しようと大豆農家を探していたとき、蒜山耕藝を紹介されました。『くど』を訪ねたときに出されたお水を飲んで驚いたんです。”無”で透明な水があまりに心地よく体に染み渡るのが衝撃で。ああ、この水で、この景色の中で、こういう人たちがいるところで豆腐を作りたい。そんな気持ちがポッとわいちゃったんです」と笑う松井さん。それが2015年夏。その秋に蒜山耕藝の大豆の収穫を手伝いに行き、年末には移住していた。
「東京の修業先がガスの地釜で豆腐を作っていたので、地釜でやろうと思ってはいましたが、最初から薪火でとは思っていませんでした。ただ、移住して初めてのアルバイトが薪割だったので、これもご縁かなと。田舎はプロパンガスが高いので、結果的には薪のほうが現実的だったとは思います」
耐火モルタルの上にレンガを積み、土で形と厚みを作って漆喰で仕上げた地釜は、左官職人に作ってもらった。
「私、やりたいと思ったことはすぐにやっちゃうんです。大変そうとか思う間もなく、気が向くままにやり続けて、それがおもしろい」
通販を中心に、豆腐3種類と油揚げ、おからの加工品を販売している。豆腐作りは週1回か2回。油揚げは2日かかるので週1回。今日の大豆は、蒜山耕藝の元研修生が作った自然栽培のサチユタカ。薪を燃やし、2時間半かけて豆乳を炊き上げ、にがりをうって固まったものをお玉ですくうと寄せ豆腐に、型に入れると木綿豆腐になる。
応援してくれる人のために
「ここで初めて自分で商売を始めて、駆け出しの頃から応援してくれるお客さんの顔が常に浮かびます。その人たちが喜んでくれる豆腐を作り続けなくてはと思っています」
小屋束(こやづか)豆腐店
撮影/大沼ショージ
取材・文・編集/和田紀子