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発酵と共に生きるー岡山・真庭で自然とともに生きる-4

発酵と共に生きるー岡山・真庭で自然とともに生きる-4

TRAVEL 2023.09 岡山特集

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岡山県の県北に位置する真庭は、蒜山高原を源流とする旭川の軟水と、北房からの備中川の中硬水が交わる日本でも稀(まれ)なエリアだ。昔からこの土地に根ざし、生業(なりわい)を受け継ぐ人たちにとって、水の豊かさが何よりキーワードだという。とはいえ、そこに安住することなく、次世代に繋げるために力を合わせ、新たな魅力を発信しようとしている。

発酵を通して地元を盛り上げていく

「真庭に移住してくる人がいるということは、真庭に魅力がある証。全国でも珍しい軟水と硬水の河川が合流する場所で、水がきれいで豊かなことに加えて、寒暖差が大きく発酵に適しているため、古くから美酒を作れる郷『美酒(うまさけ)の国』と呼ばれてきました」

そう話す河野尚基さんは、河野酢味噌製造工場の5代目。初代はお酢で会社を興し、2代目が味噌と醤油を造り始め、3代目が加工品にまで手を広げ、4代目が商品の品質を高めることに尽力してきた。酢、味噌、醤油を造る蔵は全国でも珍しい。

「江戸時代は出雲街道の宿場町として栄えたこともあり、酒をはじめ、味噌や醤油など発酵食を造る蔵がたくさんあったんです。昭和初期まで20軒以上あった酒蔵も今では2軒、醤油蔵もうちともう1軒だけになってしまいました。でも、”日本の伝統”とか”老舗”ではなく、”発酵”というくくりで真庭を見渡せば、ビールやワイン、チーズといった西洋の発酵に携わる人たちが大勢いることに気がついた。真庭は”発酵の町”なんです」(河野さん)

「じゃあ5代目の自分が次に繋がる何を残していけるかと考えたとき、子どもや孫の世代が自分たちの町には発酵という文化があると誇れるように、と『まにわ発酵’s』を立ち上げました。その結果として生まれたのが『御前酒蔵元辻本店』の酒粕で作った赤酢です。辻さんも言っていましたが、40歳を超えたら、自分たち世代がやりたい放題できるのはあと10年。だったら、とことん好きなことをやるしかないんです」(河野さん)

「まにわ発酵’s」は、発酵食品を扱う真庭市内の7社が協力し、発酵を通じて真庭の新たな魅力を発信しようと結成された。1804年創業の老舗「御前酒蔵元辻本店」もメンバーのひとつ。

「ちょうど日本酒の消費が落ち込んでいたときで、日本酒に興味がない人にも日本酒に触れる機会を持ってもらいたいと、7代目当主の総一郎と2人で店をリニューアルしたり、新たな挑戦をしています」と杜氏の辻麻衣子さん。取り組んでいるのは、すべての酒を日本一古い原生種である岡山のブランド酒米、雄町米で造ること。そして、もっとも古くから伝わる菩提もと仕込みで「御前酒」を造ること。

代表的な酒米のひとつ「雄町」は1859年に岡山県で生まれ、品種改良されることなく現在まで栽培されている唯一の品種。右から、9月~11月にANAビジネスクラス短距離路線で提供されるANAオリジナル酒「御前酒 純米雄町」、雄町が生まれた年号を冠した「御前酒1859」、真庭産檜の木箱付き「御前酒 特等雄町2.2」。

「空気中の乳酸菌を利用した酒造りで、手間はかかりますが、爽やかさと味の奥深さが出るんです。原点回帰ではないですが、その土地にしかないものや、失われていた造り方にこそ、未来の答えがあるような気がします」(麻衣子さん)

河野酢味噌製造工場

岡山県真庭市久世267

https://kohno-honten.co.jp/

GoogleMap

御前酒蔵元辻本店

岡山県真庭市勝山116

https://www.gozenshu.co.jp/

GoogleMap

撮影/大沼ショージ

取材・文・構成/和田紀子

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