函館ホテルの新名所“HOTEL 白林” 旧ロシア領事館で過ごす極上時間
五稜郭に刻まれた激動の歴史、函館山の夜景が描く光の海――。この街の表情をかたちづくる要素は数あれど、函館ならではの魅力をもっとも色濃く映し出すのは、異文化が自然に溶け合う町並みだ。
とりわけ函館山の麓ふもとに位置する西部地区には、和洋折衷の古民家や往時を今に伝える歴史的建造物が点在し、どこかやさしく、しっとりとした港町の空気をつくりだしている。
人々が古い建物を受け継ぎ、活かしながら守ってきた景観は、街そのものの記憶でもある。そんな“時をつなぐ”建築を訪ね歩き、函館が紡いできた時間に触れる旅へ――。

赤レンガに刻まれた帝政ロシア時代の記憶

開港以来、外国人居留地として西洋の文化が流入し、日本文化と交ざり合いながら独自の景観をかたちづくってきた函館。なかでも西部地区と呼ばれるエリアには、明治から昭和初期にかけての空気をそのまままとったような歴史的建造物の洋館や、和洋折衷の古民家などが数多く残り、しっとりとした港町の風景をつくりだしている。
1906(明治39)年に竣工した旧ロシア領事館も、帝政ロシア時代の記憶をとどめる重要な歴史的建造物の一つだ。函館市の所有になったのち、1996年以降は長らく使用されないまま門扉が閉ざされていたが、名古屋市の企業が建物を取得し、昨年7月にスモールラグジュアリーホテル「HOTEL 白林(びゃくりん)HAKODATE」として蘇った。
メインダイニングの窓枠はオリジナルデザインを忠実に再現し、エントランスの大階段も往時の優美な姿を残す。一方、改修前の建物は雨漏りがして、海側の壁などは崩れかけ、ボロボロの状態だったという。
「老朽化が深刻で、すぐにでも手を入れなければという、まさに“待ったなし”の状態でした」とオーナーの村瀬啓方(ひろまさ)さんは振り返る。
「明治時代の建築物としてのクラシックな佇まいを大切に守りながらも、中は現代のテクノロジーで、快適に過ごせる空間にしたかった。そこに非常にこだわりました」
ホテルのプロデュースを担ったのは、作家の谷村志穂さん。自身の小説『黒髪』執筆の取材でこの建物に出会い、その魅力に惹かれたという。その改修は「やろうと決めたら徹底的に。妥協せずに取り組めた気がします」と谷村さん。
「函館は港町なので、どこかハイカラで、時間の流れがゆったりしているんです。館内に飾った絵画やイタリア製の家具なども、窓からの景色の色合いを見ながら、この街に合うものを一つ一つ選んでいきました」


ホテルは旧ロシア領事館を改修した「領事館棟」と、隣に新たに増築したスタイリッシュな「ウェルネス棟」から成る。

吹き抜けの開放的なウェルネススペースでは、眼下の函館港を見下ろしながらサウナで汗を流し、暖炉の前で一杯傾けるような大人のリトリート時間を過ごすことができる。また全6室のスイート客室すべてにプライベートサウナと水風呂を備え、ここでしか味わえない贅沢を提供している。

「函館を歩いていると、いろいろな建物から声が聞こえてくるような気がするんです。かつて暮らしていた人の記憶が静かに息づいているというか。そう感じさせる建物が函館にたくさん残っているのは、意識的に守り続けてきた人たちがいるからなんですね」と谷村さん。
明治の息吹を宿す建物に、現代の感性が重なり合う。「HOTEL 白林 HAKODATE」は、函館が育(はぐ)くんできた「古きを活かし、新しきを迎える」精神を体現する場所だ。
領事館棟の階段の手すりは、現代のデザインと違和感なく融合させている。



ディナーは、フレンチの「メインダイニング 白夜」または「すし処 船見」から選択可能。
「船見」のウニやマグロの蛇腹握り、「白夜」のガンギエイのポッシュなど、いずれも選(え)りすぐられた、北海道の旬の味覚が並ぶ。地産の野菜、本の形をしたクロワッサンをはじめ、彩り豊かな朝食も滞在の大きな楽しみだ。




HOTEL 白林 HAKODATE
北海道函館市船見町17- 3
写真 木内和美
取材・文・編集 宮崎沙綾
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