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フランス・ブルゴーニュの忘れられないサーカス一家 そして私も家族になった

フランス・ブルゴーニュの忘れられないサーカス一家 そして私も家族になった

LIFE STYLE 旅の出会い

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才人が旅先で出会った忘れえぬ光景を綴る。今回は、遠くフランスの地に“家族の絆”を見つけた写真家。

一井りょう

広島県出身。独学で写真を始め、1994年から4年間、写真家・野波浩氏の撮影助手を務めたのちに独立。2005年、初個展「ROAD PICTURE ONE」開催。2006年、初作品集「THE VEINS」を出版。2008年からフランスのサーカスカンパニーRasposoの撮影を続け、2010年に『RASPOSO』、2020年には『MARIE MOLLIENS RASPOSO』と、2冊の作品集を出版。

忘れえぬ旅の出会い―、私にとってそれは、サーカスカンパニー「Rasposo」との巡り会いをおいて、ほかにない。
2006年、私は“盛りを過ぎた鑑賞用の切り花”を題材とした初の作品集『THE VEINS』を出版、国内外から多くの反響を得ることができた。「次は人を、家族を撮りたい」と漠然と考えていたとき、フランス・ブルゴーニュに拠点を置く、父母とその3人の子という家族を主に構成されたサーカス団の存在を知った。パリから少し離れた小さな町で彼らの公演を初鑑賞したのが2008年だった。

フランスでは70年代、従来の人間や動物の曲芸中心のサーカスとは違う、アート志向の強いサーカス「ヌーヴォー・シルク」のムーブメントが起きる。現在でも数百のカンパニーが活動しているが、Rasposoもそうした現代的サーカス団の一つだ。
初めて目の当たりにした彼らの公演は、圧倒的なオーラを放つ家族の存在に加え、テントのなかで躍動する見たこともない美しい身体表現と舞台装飾、そして生演奏の音楽が重なり合う、まさに唯一無二のものだった。私は雷に打たれたような衝撃を覚えた。そして、この家族の生き様を撮影したい、ともに旅がしたい、そう強く思ったのだ。
すぐに、カンパニーの創設者で家族の父母、ジョゼフとファニーのもとを訪ねて想いを伝え、私は巡業の同行・撮影を許された。ブルゴーニュでは家族の家の一室をあてがわれ、巡業先ではトレーラーハウスの簡易ベッドで寝た。以後、現在までに11回渡仏し、寝食をともにしながら公演に参加。情熱ほとばしる舞台に、舞台裏の準備風景に、そしてテントを離れた彼らの暮らしぶりに、レンズを向け続けた。その間には父・ジョゼフが他界し、両親からカンパニーを引き継いだ次女・マリーが2人の子を授かるなど、家族の歴史にも立ち会った。
出会いから17年。嬉しいのは、当初「いつ日本に帰るんだ?」と聞いてきた彼らが、いつしか「今度はいつ帰ってくる?」と尋ねてくれるようになったことだ。
撮影した数万カットのフィルムから、私は2冊の作品集を出版した。しかし、私と家族の“長い旅”は、これからもっと続いていくはずだ。

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