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北海道の冬、雪原の静寂に魅せられて “母”から自分に戻る瞬間

北海道の冬、雪原の静寂に魅せられて “母”から自分に戻る瞬間

LIFE STYLE 旅の出会い

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才人が旅先で出会った忘れえぬ光景を綴る。今回は、ストイックに世界と命を見つめる写真家。

写真家という仕事柄か、私は一つの場所に続けて通うということが少なくありません。個人的に撮影に赴くだけではなくて、偶然、その場所での仕事の依頼が続けて舞い込んだり、その土地に暮らす友人に招かれたり。あるときは、そのようにしてブラジルに通ったこともありましたし、気づけばまた沖縄にいる、という年もありました。

今回、掲載していただくのは数年前、やはり多くの偶然が重なって1〜2カ月に一度という頻度で訪問していた、北海道で撮影した写真です。

不思議な縁を感じさせてくれた北海道。季節ごとに印象が大きく異なる場所ですが、とくに私が好んでいるのが冬、雪のなかに身を置くこと。深雪にあらゆる音が吸い込まれてしまったような静けさが好きなのです。静謐(せいひつ)な空気に包まれていると、それまで雑然としていた自分自身の思いが、やがて一つに収れんされていく……自分の心の変化を実感できる場所、それが冬の北海道でした。

雪原でシャッターを切りながら、改めて自分を見つめ直す─。

それは母になり、子育て中心の暮らしをしばらく続けてきた私が、もう一度、本来の自分が立つ場所に、少しだけ戻ることができた瞬間だったように感じています。

写真家 川内倫子

1972年、滋賀県生まれ。国内外で数多くの展覧会を行う。主な著作に『Illuminance』(11年)、『あめつち』(13年)、『Halo』(17年)など。25年1月に写真集『M/E』を刊行し、同年1月9日〜28日までBOOK AND SONS(東京)にて刊行記念展を開催。