フロリダの豪雨と日本の梅雨 大嫌いな雨と向き合った後に見えるもの
※ この記事は、翼の王国2025年6月号に掲載されたものです。
6月になり、日本の皆さんは少し憂鬱(ゆううつ)な、梅雨の季節を迎えたころだと思います。私がいま暮らしているオーランドも、5月後半から雨季が始まりました。ただ、同じ雨でも日本とフロリダとでは少々、その様相が違っています。


近年は温暖化の影響か、日本でもゲリラ豪雨のニュースが散見されますが、雨季に入ったオーランドに降るのも、まさに豪雨。この先、数カ月間は連日、バケツをひっくり返したような雨に見舞われます。ドライブ中に降り出してしまうと、ワイパーも一切役に立たず、前がまったく見えなくなって恐怖すら覚えるほど。でも、それはごく短い時間だけ。通常は午後3時から5時ごろまでの1時間ほどにいやというほど降ると、その後はまたカーンと晴れ間が広がる――、それがこちらの雨季です。
日本の梅雨のように来る日も来る日も、朝から晩までシトシトと降り続けるということはなく、雨の降り方もじつにアメリカ的というのか、雨季でも憂鬱な気分になることもありません。
とは言え、私は雨が大嫌いです。
車いすユーザーにとって雨は“天敵”なんです。なぜなら、車いすを両手で操作しながら傘を差すということが難しいから。いまも、日本で生活していたころも、雨降りの日に屋外に出なければならないときは、いちばん濡れやすい膝や腿にタオルをかけ、上半身はユニクロのブロックテックなど雨を弾(はじ)く素材の衣服を着用、フードを深く被(かぶ)ってただひたすらダッシュです。それでも、豪雨の中では全身ずぶ濡れになることを覚悟しなければなりません。


また、テニスの競技者というのも、雨との相性はとても悪いんです。ゴルフなどと違い、テニスの試合は雨が降り始めると即中断です。濡れたコートは滑りやすく、ラケットのガットは水に弱い。なにより、水分を含み重くなったボールでは、とてもではありませんが、まともなプレーはできないから。
現役時代、雨で試合が中断、大会スケジュールが延び延びになることが多々ありました。朝10時開始予定の試合が午後3時からに、なんてことがざらに起こる。しかも、雨が上がったらすぐ試合再開なので、ずっと会場で待機していなければならないのですから、たまったものではありません。
かように、雨が大嫌いな私ですが、ここオーランドでは、雨季ならではの美しい光景をほぼ毎日、見ることもできます。それは虹。起伏がほとんどなく空がとても広いオーランド。広々とした雨上がりの空に、日本では見たこともない大きな、大きな虹がかかります。この、美しい虹を見るためなら雨もそう悪いものではない、そんなふうにも思えるのです。
写真・文 国枝慎吾
脊髄腫瘍のため9歳から車いす生活となり、11歳で車いすテニスと出会う。四大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」を達成。23年1月、世界ランキング1位のまま引退。
2016年よりスポンサーシップ契約を結んでいるANAは国枝さんの新しい挑戦をさらに応援し続けます。
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