予約困難な店「焼肉・金竜山」 心まで満たされる白金の名店
おいしくて、予約のなかなか取れない人気店――。そんな評判の焼き肉店「金竜山(きんりゅうさん)」を初めて訪れたのは、十数年前のこと。たしかに、肉や料理は噂に違(たが)わぬ絶品ばかり。ですが、ここには料理以上に私の心を鷲掴みにする“唯一無二”のものがあるのです。
店の所在は東京・白金。場所柄、豪奢(ごうしゃ)な店を想像する人も少なくないと思います。私もそうでした。ですが、実際の店は無駄な気位や飾り気は一切なし。こぢんまりとした、私の地元・大阪の下町にあるお好み焼き店のような外観。入口にビールケースが積まれていたりして、横向きにならないと入れない、そんな店なんです。
私も初訪問のときは、さすがに胸中でつぶやきました。「え、ホンマにココ?」。「寒いね〜、早く入ったら」と、まるで幼友達のオカンのような口ぶりで客を迎えるのは、店構え以上に素朴な店主“金竜山のおかあさん”。
「はい、ビール回してー」と客の手を借りることにもためらいはありません。愛嬌たっぷり、矢継ぎ早に「元気だった?」「お腹空(す)いてる?」と。「お腹空いてるから来てんねん!」と、ツッコミの一つも入れたくなる、そんな接客なんです。いや、きっとおかあさんには接客という意識はないのかもしれません。客と店、いや、人と人との結びつきだけを大事にする、それが彼女の流儀なんだろうと思うのです。
果たして、食事が終わるころにはお腹はもちろん、心まで満たされていて。私は毎度「やられた……」と、幸せな満足感とともに店を後にするのです。
今月の装花はシロシマウチワ。どれも同じように見えますが、同じ葉脈の模様は二つとありません。唯一無二の美しさを持っているのは、植物も人も同じなのです。

赤井勝(あかい・まさる)
1965年、大阪府生まれ。花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、自身の飾る花を「装花」と呼ぶ。2008年、北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、2013年、伊勢神宮式年遷宮では献花を奉納。2017年、フランスのルーブル王宮内パリ装飾芸術美術館で開催の「JAPAN PRESENTATION in PARIS」でも桜の装花を担当した。昨年、大阪府堺市に「Akai Masaru Art Museum」をオープン。
編集 仲本剛
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