リューココリーネから始まった旅 装花家・赤井勝が求め続ける“記憶に残る一瞬”

今月の装花、メインの花材は南米原産のリューココリーネです。
私は15歳で、生まれて初めてこの小さな花を見てカルチャーショックを受けました。45年前の花卉(かき)業界、流通している花の種類はとても限られていました。私の実家は大阪郊外の生花店ですが、店にはキクやユリ、バラ、チューリップ……年間を通しても10種類ほどの花しかありませんでした。そのような環境で生まれ育った私が、この切手サイズにも満たない可憐な花を目(ま)の当たりにし「ドキッ」と胸を打たれたような衝撃を覚えたのです。そのときのことを思い返すと、いまも鳥肌が立ちます。
記録更新を期待して
あれから半世紀近く、ずっと花と関わり生きてきた私ですが、じつは同じような忘れえぬ出会いがもう一つ、あります。それは北海道。女満別(めまんべつ)空港にほど近いサロマ湖でのこと。いまから25年ほど前、私は縁あって、ここで毎年初夏に開催される「サロマ湖100kmウルトラマラソン」に3年連続で出場したことがあるのです。おかげさまで3大会とも、10〜11時間という記録で完走できました。
大会ではゴールの少し前、サロマ湖とオホーツク海の間の細長い半島部分を往復します。この半島にあるのが「ワッカ原生花園」。周辺は海浜植物の一大群生地が広がり、足元にはスミレやハマエンドウ、センダイハギなどの小さな花々が咲いています。広大な北海道、目標物となるような物がほとんど見当たらない、一向に景色の変化のないなかを8〜9時間、走り続けた私……正直言えば、心身ともにボロボロの状態です。そんな私が、野に咲く花を目にして「わぁ、きれいやな」と思わず声を漏らしました。渇ききった心を一瞬にして潤してくれた野に咲く花。そのとき感じたのは、初めてリューココリーネを目にしたときの「ドキッ」に勝るとも劣らない感動でした。
そして、いま。私はその感動を上回る、記録更新となる「ドキッ」を求めて日々、花と向き合っているのです。

赤井勝(あかい・まさる)
1965年、大阪府生まれ。花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、自身の飾る花を「装花」と呼ぶ。2008年、北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、2013年、伊勢神宮式年遷宮では献花を奉納。2017年、フランスのルーブル王宮内パリ装飾芸術美術館で開催の「JAPAN PRESENTATION in PARIS」でも桜の装花を担当した。昨年、大阪府堺市に「Akai Masaru Art Museum」をオープン。今年5月23日〜29日「富士フィルムフォトサロン 東京」、6月13日〜19日「富士フィルムフォトサロン 大阪」にて、写真展「時静 -JISE- 花人 赤井勝のせかい」を開催する。
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