文武両道と「今を生きる楽しさ」を届けたい 長崎で広がるプロスポーツによる教育改革
トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表の竹下雄真さんが、各界のトップランナーと対談し、旅を通したウェルネスや仕事術、地域創生などのお話を伺う連載。第3回目のゲストには、ジャパネットホールディングスの代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の髙田旭人さんをお迎え、「スポーツを核とした街づくり」をテーマに、ジャパネットが手がけた長崎スタジアムシティの特徴や民間主導による地域創生、そして、旅の思い出についてお話を聞きました(全5回の3回目)。

長崎ヴェルカとV・ファーレン長崎が取り組む未来への投資
竹下 長崎ヴェルカも、V・ファーレン長崎も、長崎を本拠地とするプロスポーツクラブとしての認知度を高めるために、地域の人々との交流に大変力を注いでいると聞きました。
髙田 バスケもサッカーも地道に活動しています。長崎ヴェルカは、県内の小学校などを訪問して、バスケットボールやチアダンスのクリニック(※)やイベントを開催。V・ファーレン長崎も、県内21市町全てをホームタウンとしており、小学校や保育園、幼稚園に訪問し、子どもたちにスポーツの楽しさを伝えています。選手もスタッフもとても協力的で、長崎中に出向いて直接指導を行い、技術はもちろんチームワークやスポーツマンシップについても教えています。
※:スクールコーチ陣が競技技術だけでなく、バスケットやチアダンスを通して「今を生きる楽しさ」を全ての子どもたちに伝えていく活動。
竹下 クリニックに参加した子どもやその家族が試合を観に会場に足を運んでくれるようになりますね。
髙田 クラブとの交流を通してスポーツの楽しさを知り、試合を見に来てくれる子どもたちがもっと増えると嬉しいです。長崎は島が多いのですが、離島でもクリニックを開催すると、子どもが100人も集まるほど人気です。
竹下 クラブ公式のスクールもあるんですよね?
髙田 長崎ヴェルカバスケットボールスクールは、幼稚園の年中・年長から中学生まで年齢に合わせたレッスンクラスを用意していますし、V・ファーレン長崎が運営するジュニアサッカースクールもあります。チアダンスのスクールも合わせると、1000人以上の子どもたちがスクールに通っています。




海外から輸入 スポーツと勉強を両立させる新たなアプローチ
竹下 前述の長崎スタジアムシティに入っている学習塾(英進館 長崎校)とは連携しているのですか?
髙田 しておりません。ただ、英進館様は長崎ヴェルカのスポンサーなので、試合を見に来ている子どもたちも多いですよ。とことん勉強を頑張った後にスポーツ観戦もいいサイクルだと思います。
竹下 デポルターレクラブでも、中学生の野球チームを運営しているんです。地域の小さいチームですが、塾と連携しています。推薦で進学を目指すとしても、監督やコーチが生徒の成績が把握できていないと適切な指導ができないんですよ。もし、ここのスクールと学習塾が連携したら全てが実現できるだろうなと思いました。
髙田 海外では、スポーツだけでなく学業でも素晴らしい成果を上げている選手がたくさんいます。アメリカのバスケットボール選手の中には、名門大学を卒業した人も少なくない。私自身、中学受験の経験がありますが、日本の場合、小学校の高学年は、勉強以外のことは全てを排除して受験だけに集中しなければならない。当時を振り返っても、週1回程度のスポーツは、むしろしたほうがよかったのではないかとも思いますし、そういう文化も変えていきたいですね。程よく運動をしながら、自分の意思で勉強に向かわせる。それが健全ではないかと思います。
竹下 髙田社長はスポーツはやられていたんですか?
髙田 高校時代に野球をやっていました。当時は、野球をやるならしっかり勉強もやらないといけないと思っていました。
竹下 日本プロ野球の清宮幸太郎選手(北海道日本ハム)は、彼が中学生のときから見てきましたが、朝6時には学校に行って勉強していました。最近は、日本の若いアスリートも、スポーツだけでなく学業でも優秀な成績な方が増えていますね。やはり、きちんと勉強をしてきている選手とそうでない選手と差が大きいと思います。
髙田 高校野球のトップ選手だった佐々木麟太郎選手(花巻東高)も、父親の野球部の佐々木洋監督は菊池雄星選手(エンゼルス)や大谷翔平選手(ドジャース)を育てた方ですが、結局、佐々木選手自身は、スタンフォード大学に進学して。代表クラスになる選手は、みなさん語学も堪能ですし、文武両道だと感じています。

選手の家族もケアすることで想いあるチームづくりができる
竹下 今日は、髙田社長にスポーツチームが強くなる秘訣を伺いたいと思っていたんです。2020年に創設した長崎ヴェルカは2023-2024シーズンからB1昇格しましたが、急速に飛躍した要因はなんでしょうか?
髙田 長崎ヴェルカに関しては、GM(ゼネラルマネージャー)である伊藤拓摩の手腕が素晴らしいことに尽きると思います。2023年から株式会社長崎ヴェルカの代表取締役社長も兼任しており、彼は本当にバランスよく、クラブ経営はもちろん、我々の想いを乗せたチームづくりを推進してくれています。伊藤には、もともとクラブ立ち上げの準備段階から加わってもらったのですが、まだチーム名もなく、選手が1人もいないところからクラブを作り上げてくれた立役者です。クラブができた当初はヘッドコーチとして現場の指揮も執っていました。そういう任せられる人がいるというのは、本当に大きかったです。

竹下 サッカーJリーグのV・ファーレン長崎は、レギュラーシーズン3位という結果でしたが、プレーオフで敗れ、J1昇格がかないませんでした。いまの課題は?
髙田 まず、試合に出場する選手の人数がバスケは5人、サッカーは11人。登録選手の人数で言うと、バスケは10人から12人なのに対してサッカーは35人ほどで、規模感が大きく違います。それに、バスケはまだBリーグが発足してからの歴史も浅いので、私たちの想いに共感して長崎ヴェルカを作ろうという仲間が集まってくれますが、サッカーは30年以上の歴史があり、J1とJ2の差も大きい。海外を目指すトップレベルの選手は、J1のチームでやりたいと考えるのは当然です。ただ、長崎スタジアムシティができたことで、相当のサッカー選手が興味を持ってくれています。
竹下 結局、チームが強くなることでいい選手が取れるということですね。
髙田 それも、鶏と卵のどちらが先かという話と同じで、強かったら人が来るのか、人が来たら強くなるのかという議論が生まれます。ただし、トランスコスモススタジアム長崎のときは観客動員数が平均7千人だったのが、長崎スタジアムシティになってからは約2万人のサポーターが集結。ほかのクラブに引けを取らないスタジアムになりつつあると思っています。それと、選手の待遇面では、試合のとき、選手の家族が使えるお部屋を用意するのも長崎スタジアムシティの大きな特徴ではないでしょうか。そういうケアがあると何が起こるかというと、選手の奥様が「長崎がいい」と言ってくださって、クラブを選ぶ際に有効な要素になる。ヨーロッパには、選手が子どもと遊べる部屋があるのですが、日本にはほとんどなかったのです。ですので、そういうことを積み重ねながら、選手をリスペクトしたチームっていうのをいま作っている段階です。

竹下 選手だけでなく、ご家族にも厚いケアができるというのは、おそらく、御社の社風なんでしょうね。通販の会社として人々の暮らしを豊かにしてきた企業らしいと思います。
髙田 そう言っていただけると、確かに、ジャパネットの強みを活用していると思います。たとえば、長崎に移住する選手たちの希望に沿った家を探すこともしています。ブラジルの選手など、いい家に住みたくても外国人が住みやすい家がなかなか見つからない。そういう場合、家を購入し、リノベーションを施して、選手の家族に気に入ってもらえるような家を提供するというところまでやっています。選手が楽しくプレイできたらサポーターも喜ぶ。つまり、弊社の理念として、人が幸せだったらお客様にも伝わるというのと同じ理屈です。そして、その先に「今を生きる楽しさ」あふれるものにすることができる世界を作るということを、私はやりたいのです。
竹下 選手のパフォーマンスにもかなり影響が出ると思いますよ。リクルーティングの際、プラス事項になるのは間違いないでしょう。
ジャパネットホールディングス代表取締役社長 髙田 旭人 | たかた あきと
1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、証券会社を経て、ジャパネットたかたへ入社。バイヤー部門、コールセンター部門、物流部門の責任者を経て、2010年にジャパネットコミュニケーションズ代表取締役社長となる。ジャパネットたかた取締役副社長を経て、2015年1月、ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任。2019年には通信販売事業に加え、スポーツ・地域創生事業をもう一つの柱とし、「リージョナルクリエーション長崎」を同年6月に設立。サッカースタジアム・アリーナ・オフィス・商業施設・ホテルなどの複合施設「長崎スタジアムシティ」の開発を民間主導で取り組み、2024年10月14日に開業した。現在はホールディングスを含む8社の代表を務める。

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 | たけした ゆうま
会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。
