長崎から全国へ 革新的なジャパネットの戦略が広げた地域創生と観光のかたち
トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表の竹下雄真さんが、各界のトップランナーと対談し、旅を通したウェルネスや仕事術、地域創生などのお話を伺う連載。第3回目のゲストには、ジャパネットホールディングスの代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の髙田旭人さんをお迎え、「スポーツを核とした街づくり」をテーマに、ジャパネットが手がけた長崎スタジアムシティの特徴や民間主導による地域創生、そして、旅の思い出についてお話を聞きました(全5回の2回目)。

観戦をきっかけに非日常を提供するスポーツツーリズム
竹下 スタジアムを中心にした地域創生は、まさに未来を見据えた持続可能な発展の一つの形だと言われています。いま、全国各地でスタジアムやアリーナの新設が進み、これを地域創生の一環として捉えられていることについてどうお考えですか?
髙田 もともと、“スポーツツーリズム”という概念は、地域活性化の一環として注目されています。実際、V・ファーレン長崎のサポーターのみなさんも試合日に観光を組み合わせて訪れます。熱狂的なサポーターになると、アウェイでの試合を観戦するために土曜日の朝から全国各地に行って試合を観て、翌日観光をして帰ってくる。もしくは、土曜日に観光して日曜日の試合を観て帰ってくるという方が非常に多いです。ですから、その究極の形をここ、長崎スタジアムシティに作りたいのです。たとえば、浦和レッズさんとの試合では、諫早市にあるトランスコスモススタジアム長崎に3〜4千人のサポーターが長崎にいらっしゃいました。新しくなった長崎スタジアムシティには、近くに観光名所も多くあるので、さらに多くのサポーターが来訪することが予想されます。ホテルの部屋数は243室と決して多くはありませんが、客室を最大6人まで宿泊できるように設計するなど、仲間や家族と一緒に宿泊できるようになっています。また、サッカーやバスケットボールの試合観戦が目的で長崎に来られたサポーターが、平和公園や原爆資料館などを観光してくださることで、長崎の平和のメッセージも広めることができます。我々としては、そこを本当に目指しています。

竹下 オフィス棟の前に「NAGASAKI PEACE MAP」という長崎市内の観光案内板があったり、近隣の町の観光名所が掲示されていたりして、来場者の足がここだけに留まらず、市内に向くようにいろいろと工夫されているのだなと思いました。
高田 市内への回遊の拡大は、まさに我々がやりたいことです。長崎という地名は、世界的な知名度が高いと言われていますから、その知名度を活用して、今後、イベントの誘致活動や海外向けのPR活動などもどんどん広げていきたいと思っています。ジャパネットグループでは旅行事業もしておりますが、弊社を利用されるお客様は、比較的年齢層が高く、リタイア後で時間に余裕のある方が多いという傾向があります。1週間ほどご旅行されるお客様もいらっしゃいますので、長期滞在でも楽しんでいただけるよう、アリーナでのイベントとホテル宿泊をセットにした特別なプランなども企画しています。
竹下 ただ、楽しいからスポーツ観戦に来てください、ホテルに泊まってくださいというだけでないところが幅広い事業を展開するジャパネットさんの強みですよ。やはり地方に旅行する際には、単に宿泊施設やスポーツ観戦だけでなく、旅行者が楽しめる多様なアクティビティやエンターテインメントが必要だと思います。特に、地域の魅力を最大限に引き出すためには、その土地ならではのレジャーや体験が不可欠になってきますね。

髙田 そうなんです。ホテルの最上階にあるライブレストラン「THE CLUB NAGASAKI」は、ジャズやクラシックなどの生演奏を楽しみながら食事ができる大人の社交場です。平日の夜でも楽しめるため、1泊のお客様向けにも好評です。こけら落としは、ピアニストの清塚信也さんに来ていただいて、2日間4公演のオープニングコンサートを実施しましたが、想定を大きく越える応募がありました。長崎の美しい夜景を眺めながら上質な音楽を楽しめる。これも、長崎スタジアムシティに来たからこそ味わえる非日常の体験で、とても贅沢なひとときをお過ごしいただけるのではないかと思います。




竹下 聞けば聞くほど、観光客がスポーツ観戦や旅行を通じて、その地域の文化や観光スポットを楽しむ仕組みづくりが進んでいますよね。ここからは、なぜ、通販会社のジャパネットがプロスポーツクラブを設立したり、スポーツ・地域創生事業に取り組んだり、とスポーツに着眼したのか、その理由についてお伺いしたいと思います。
「いいものを伝える」通販事業の強みを生かして事業を多角化
髙田 2015年に父から経営を引き継いで、ちょうど10年が経ちました。長年、通信販売の会社をやってきて、ジャパネットの強みは、いいものを「見つけて・磨いて・伝える」ことだと思っています。確かに、その言葉どおり、自分たちで良い商品やサービスをさらに磨いて、それをテレビやチラシなどのメディアを通して、お客様に商品の魅力を伝えるということをやってきました。そこで、今度はスポーツをやる理由はなんだろうかと考えたとき、直感的に、スポーツはジャパネットに向いていると思ったのです。つまり、スポーツの様々な魅力を見つけて、自分たちで磨いて伝えれば、感動を生み出せる。スポーツ・地域創生事業をスタートさせたときに掲げたコンセプトも、やはり、いいものを「見つけて・磨いて・伝える」でした。

竹下 通販事業の強みがスポーツでも生かされたということですね。
髙田 そうですね、スポーツと地域創生のどちらにも通じることでした。スポーツ・地域創生事業を担う会社を設立したのが2019年。さらに、バスケットボールクラブ「長崎ヴェルカ」を設立したのが2020年。一から自分たちで想いのある選手を集めて、チアチームを作って、アリーナを作って、とやっていけば必ず長崎が盛り上がるという確信がありました。いま、長崎ヴェルカは凄まじい人気です。チケットは1日で即完売は当たり前で、40試合連続完売という記録が出るほど。おそらく、相性がよかったのでしょうね。


旅行と通販の多角化モデル 口コミでJリーグチームに拡大
竹下 スポーツが持つ力を最大限に引き出すことで、地域の魅力を再発見し、地域全体の観光業が発展。有名なスポーツイベントが開催されるようになれば、地域の知名度やイメージも向上します。設立時の思いどおり、スポーツ・地域創生事業は、通販事業に次ぐ第2の柱になっていったのですね。
髙田 社内組織で言いますと、通販事業の会社が4社と、スポーツ・地域創生の会社が5社あって、この間に両方にまたがる会社が6社あるのですが、これが特徴的で。トラベルカンパニーは旅行を販売すれば通販ですが、長崎に来ていただければ地域創生です。また、イノベーションカンパニーも面白くて、ジャパネットのクレジットカードを発行したり、キャッシュレス端末を作ったり。実は、長崎スタジアムシティは完全キャッシュレスで、自社でキャッシュレス端末の企画・開発をしています。
この仕組みは、JリーグのJ1、J2チームの50%でも導入されています。最初、モンテディオ山形さんに導入していただいたら評判がよくて、口コミで広がっていきました。ほかにも、富士山の天然水のウォーターサーバーを販売する会社もあり、スタジアム内でもビール醸造所を運営しています。それからBS放送局「BSJapanext(ジャパネクスト)」は、2025年1月10日から「BS10(ビーエステン)」にリニューアルしたのですが、これも通販で商品を販売して売り上げを作りながら、旅行や地域の魅力を伝える番組も制作して放送しています。

ジャパネットホールディングス代表取締役社長 髙田 旭人 | たかた あきと
1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、証券会社を経て、ジャパネットたかたへ入社。バイヤー部門、コールセンター部門、物流部門の責任者を経て、2010年にジャパネットコミュニケーションズ代表取締役社長となる。ジャパネットたかた取締役副社長を経て、2015年1月、ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任。2019年には通信販売事業に加え、スポーツ・地域創生事業をもう一つの柱とし、「リージョナルクリエーション長崎」を同年6月に設立。サッカースタジアム・アリーナ・オフィス・商業施設・ホテルなどの複合施設「長崎スタジアムシティ」の開発を民間主導で取り組み、2024年10月14日に開業した。現在はホールディングスを含む8社の代表を務める。

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 | たけした ゆうま
会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。

取材・文・編集 服部広子
写真 大串祥子
次回の「旅で解放する」は3月18日(火)配信予定です。