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長崎スタジアムシティ誕生 ジャパネット髙田旭人社長が語るスポーツの街づくり

長崎スタジアムシティ誕生 ジャパネット髙田旭人社長が語るスポーツの街づくり

LIFE STYLE 旅で解放する

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トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表の竹下雄真さんが、各界のトップランナーと対談し、旅を通したウェルネスや仕事術、地域創生などのお話を伺う連載。第3回目のゲストには、ジャパネットホールディングスの代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の髙田旭人さんをお迎え、「スポーツを核とした街づくり」をテーマに、ジャパネットが手がけた長崎スタジアムシティの特徴や民間主導による地域創生、そして、旅の思い出についてお話を聞きました(全5回の1回目)。

プロサッカークラブを救う 地元長崎への想いで始動

竹下 ジャパネットホールディングスが長崎市に建設した大型複合施設「長崎スタジアムシティ」が昨年10月に開業しました。約2万人を収容するサッカースタジアムを中心に、約6,000席のアリーナ、ホテル、商業施設、オフィスなどを配置し、スポーツ観戦やイベント、買い物、宿泊などさまざまな楽しみ方ができるような複合施設になっています。まず、このプロジェクトの立ち上げの経緯について伺えますか?

髙田 もともとは、プロサッカークラブ「V・ファーレン長崎」が経営不振に陥り、どこかが救済しないと倒産してしまうという危機に陥った。以前からメインスポンサーをしており、地元のクラブを無くしてはいけないという想いと、ジャパネットでやるなら、すべてに責任を持ってとことん向き合おうと100パーセント株式を取得し、グループ会社化したのが2017年ですね。当時は、スタジアムをつくる予定はなかったのですが、長崎の街のど真ん中、JR長崎駅から歩いて10分くらいのところに7.5ヘクタールの土地が出ると聞いて、ここに作らなかったら、もう2度とできないなと思った。長崎は坂が多くて、なかなか平地がないのです。

竹下 敷地面積が東京ドームの1.5倍あるとか。

髙田 この一帯は、三菱重工業が所有していた長崎造船所幸町工場が建っていたところで、V・ファーレン長崎をグループ会社化した翌年に跡地活用事業の公募があり、サッカースタジアムを中心とした計画で手を挙げたら内定したのです。プロジェクトをスタートさせてからは、スタジアムだけではなくアリーナもつくろう、それならバスケットクラブもいるな、と。それで、長崎初のプロバスケットボールクラブ「長崎ヴェルカ」をゼロから立ち上げ、Bリーグに参入しました。

竹下 施設を見学させていただきましたが、世界規模ですね。感動しました。やはり世界中のいろいろなスタジアムを視察されたのですか?

髙田 1週間くらいアメリカを回って、サッカーとバスケ、野球の試合を見ましたし、ヨーロッパにも行きました。30くらいの世界中のアリーナ、スタジアムを視察して、全部いいとこ取りしました。

竹下 特に、どこかを参考にしたわけではないのですね。

髙田 ないですね、いろいろ混ざっています。ホテルの真横に立つスタジアムがなかったので、そういうのをつくりたいとか。サンフランシスコ・ジャイアンツのオラクルパークは、コンコースが公園のようにオープンになっているのがいいと思いました。日本では、スタジアムは内と外で分けるのが常識ですが、試合がない日は誰でも入れていいのではとアイデアに取り入れました。ピッチの天然芝を見たら気持ちいいし、席もこれだけあるので、食事もスタンドで食べればいいのではと、そんなふうに施設を構成していきました。

竹下 ホテルも、ジャパネットのグループ会社が運営していると聞きました。

髙田 ブランドを入れようかと検討したのですが、細かいことも自分たちでやりたくて。たとえば、先日のサッカーJ1昇格をかけたプレーオフは、準決勝でベガルタ仙台と対戦して、仙台のサポーターがたくさんいらっしゃいました。それで、ホテルの入口に仙台と長崎のチームマスコットを並べたり、試合のときは、食事にアウェイの名産品を必ず1品は出したり、というおもてなしをして。仙台のときは、VIPルームの方に牛タンをお出しました。毎週、来られる方は、アウェイチームの地域の名産品が食べられるのです。自社だからこうした細かい対応ができますし、それをやるために全体で千人くらい採用しています。

竹下 サポーターのみなさんも来るのが楽しみになるでしょうね。施設を見学したとき、選手のロッカールームも見せていただきましたが、ホームとアウェイのロッカールームの広さが一緒なんですね。

©VVN

長崎から発信する平和×スポーツ×おもてなしの融合

髙田 もちろん、試合は勝つぞという気持ちで戦いますけど、試合以外のところでは、「ようこそ、長崎へ」と、みんなで言えるような雰囲気づくりをしていきたいと考えています。したがって、試合中もアウェイチームのゴールシーンのリプレイも流しています。やはり、長崎は平和への想いを大切にしていますので、長崎スタジアムシティは、おもてなしと平和を重んじているところが特徴だと思います。

竹下 サッカースタジアムを「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」という名前にしたのも、そういう想いがあったからですか?

髙田 かつて、ここは軍需工場があった場所で、被爆された方もたくさんいらっしゃいました。長崎の企業として平和という言葉を大事にしたいと思い、ネーミングライツを取得いただいているソフトバンクさんにも平和への想いに共感していただき、「ピーススタジアム」という名前をつけていただきました。サッカーのサポーターには、熱狂的でやたらブーイングする方が一部いらっしゃいます。しかし、ブーイングがないほうが頑張れると、選手たちからの声も聴いているので、V・ファーレン長崎は、そういうチームをつくっていきたいと思っています。

竹下 北海道に日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」がオープンする前に、この『翼の王国』の取材で施設見学をさせてもらったんです。あちらは、電通、ファイターズ、日本ハムの共同出資で運営していますが、長崎スタジアムシティは、髙田社長や社員のみなさんの想いとか、長崎という街の特色をより感じられて、本当に素晴らしいと思います。

髙田 同じくらいの規模感のスタジアムを同時期に北と南でオープンしたこともあり、よく比べられますけど、アプローチは全然違うと思っています。こちらは、自分たちがいいと思ったことを自分たちの手で、本当に泥臭くやっているという感じです。

人は“流れる”なかでお金を使う〈高田流マネタイズ論〉

竹下 オリジナルクラフトビールの醸造所もあるんですね。

髙田 醸造タンクが10台あって、作り立てのクラフトビールを樽からそのまま注いで提供しています。長崎の特産「ゆうこう」という柑橘を使ったビールもあるので、ぜひ、飲んでいってください。ジップラインはやりましたか? サッカースタジアムの上空を滑走できますよ。

竹下 乗り場は見学しましたが、まだやってないです(笑)。ジップラインは、なぜ設置しようと思ったんですか?

髙田 会議中に、試合のない日にスタジアムを稼働させる方法はないかと話していたとき、僕が「ジップラインで飛べませんか?」と聞いたら、「調べます」と。それで、2〜3週後の会議で、「このくらいの金額でいけます」と言うので、「じゃあ、いきましょう!」と設置を決定しました。

竹下 社長もやられたことはあるんですか?

髙田 やりました。面白いですよ。サッカースタジアムの上空をジップラインで滑走できるのは、ここが日本で初めてです。

竹下 ジップラインの到着地点の屋上では、長崎の街を眺めながら無料で足湯ができていいですね。館内にも天然温泉を使った温浴施設とサウナもありましたし、スポーツ観戦以外にもいろんなアクティビティを体験できそうです。

髙田 マネタイズをしようとすると、すぐお金をどう稼ぐかという話になりがちですが、実はそうではない。まずは、“人が流れる”ということが大事で、人が流れて、そのなかでお金を使いたい人は使えばいいし、使いたくない人はべつに使わなくてもいいという感覚が必要なんです。そういう意味で、最初の人が来るというのは比較的成功していて、平日でも1万人くらい、イベントをやると約3万人のお客様がいらっしゃいます。それと、商業棟には学習塾、オフィス棟には長崎大学が入っているのですよ。

竹下 塾と大学が?

髙田 長崎大学に直接お願いして、サテライトキャンパスを新設してもらいました。学習塾には800人くらいの生徒が通っていて、送迎する保護者には、平日の駐車場が空いているときにゆっくりしていただけます。働く人、学生、塾に通う子どもがいれば、自然と人が流れます。あとは、レストランで食事をしたい人、バーで飲みたい人、それぞれに選択していただければいい。おかげさまで、商業棟は多くのお客様でにぎわっています。

竹下 プロスポーツクラブが2クラブもあって、さらに学習塾や大学には第二の髙田社長のような子どもたちもいる。スポーツだけじゃなく学舎でもあるところが素晴らしいですね。

髙田 それはやっぱり、地域創生のモデルケースを目指しているからです。民間企業がこれだけ投資して、きちんと黒字にして成り立っているというのを証明したいのです。そうすれば、日本中のいろんな地域の経営者が真似をしてくれて、日本中が元気になる。そのためには、きちんと黒字化しないといけない。社員には、儲けようというよりも、赤字じゃダメだという感覚を持つように話しています。

ジャパネットホールディングス代表取締役社長 髙田 旭人 | たかた あきと

1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、証券会社を経て、ジャパネットたかたへ入社。バイヤー部門、コールセンター部門、物流部門の責任者を経て、2010年にジャパネットコミュニケーションズ代表取締役社長となる。ジャパネットたかた取締役副社長を経て、2015年1月、ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任。2019年には通信販売事業に加え、スポーツ・地域創生事業をもう一つの柱とし、「リージョナルクリエーション長崎」を同年6月に設立。サッカースタジアム・アリーナ・オフィス・商業施設・ホテルなどの複合施設「長崎スタジアムシティ」の開発を民間主導で取り組み、2024年10月14日に開業した。現在はホールディングスを含む8社の代表を務める。

ジャパネットホールディングス代表取締役社長 髙田 旭人 写真

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 | たけした ゆうま

会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。

https://www.deportareclub.com/

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 写真

取材・文・編集 服部広子
写真 大串祥子

次回の「旅で解放する」は3月4日(火)配信予定です。