デーブ・ロバーツが「沖縄の教え」で勝ち続ける理由 三連覇を狙うチームを支える3つの価値
沖縄にルーツを持つロバーツ監督は、なぜ勝ち続けられるのか。その答えは「Discipline・Humility・Respect」という日本的価値観にある。2026年の最大目標を“ワールドチャンピオン”と定めた彼は、日々の積み重ねに徹底して向き合う。その哲学は、スター集団を一つに束ね、クラブハウスに共通言語として根づいている。
生まれ故郷の沖縄、日本人の価値観がもたらしてくれたもの…それが、私たちをさらに強くしてくれた

Get Ready for Another Championship Season
「もう一度、ワールドチャンピオンになること、それが2026年のシーズンで私たちのチームが定める最大の目標=ゴールです」 ニッコリと満面の笑みを浮かべながら、デーブ・ロバーツ監督(53)はキッパリとこう言い切った。
メジャーリーグでは1998〜2000年のニューヨークのライバルチームが成し遂げて以来、21世紀になってからは初の、3連覇を堂々と宣言してみせたのだ。
2024年から、ロサンゼルスの人たちに愛されているこのチームと、パートナーシップ契約を結んでいるANA。そこで今回、『翼の王国』はリーグ屈指の名将を彼の地に訪ねた。今季の目標や自身の沖縄というルーツが与えた影響、さらに、日本の文化がクラブハウスにもたらしたものまでを聞いた。
David Ray Roberts
1972年、在沖縄米軍下士官の父と沖縄出身の母との間に、那覇市に生まれる。1歳のとき、家族でアメリカ合衆国カリフォルニア州に移住。カリフォルニア大ロサンゼルス校を経て94年、ドラフト28巡目指名でプロ入り、99年にメジャーデビュー。俊足の外野手として5球団で活躍し、09年に現役を引退。16年、ドジャースの監督に就任。20年、24年、25年と3度、チームをワールドチャンピオンに導く。
Discipline, Humility, Respect 2026年も勝ち続けるわがチームの“メソッド”
――春、日本では多くの人が期待と不安を胸に新しいスタートを切ります。そこで質問ですが監督ご自身、どんな心持ちで毎年の開幕を迎えていますか?
新しいシーズンを、どんなマインドセットで臨むのでしょうか? 私は楽観的な人間です。ですから、基本的には「今シーズンはどんなことが起こるだろう?」と、ワクワクした気持ちで始めることが多いですね。
そして、開幕に当たってはまず、ゴールを設定します。私にとって2026年は、やはりワールドチャンピオン、これがいちばん大きな目標、ゴールです。この目標を最初に立てておいて「では、その目標を達成するために一日、一日をどう過ごすべきか」と、ググッとズームインするようにして考えるんです。中長期的なゴールとあわせて、目の前の一日、一日をどう積み重ねていくか、そちらにフォーカスを当てていくのです。
――ご自分の生き方、考え方のなかに、ルーツである沖縄や日本の影響を感じることはありますか?
エブリデー(笑)。それはもう、毎日感じています。そこには三つのキーワードがあります。自分をいつも戒(いまし)め、規律を求める「Discipline」、自分の立場をわきまえ謙虚、謙遜の気持ちを忘れない「Humility」、そしてもう一つは自分以外の人への敬意を持つ「Respect」。
これらの考え方は、幼いころに沖縄で生まれた母から教わったバリューです。この沖縄の、日本のバリューについては、もう、毎日のように考えて実践しようと努めています。
――あなたのチームにはスーパースターが大勢いますが、多くのスター選手を一つのチームにまとめるための秘訣はなんですか?
二つのステップがあります。一つ目は、先ほども言いましたがチームとしてのゴール、具体的に言えば今年はワールドチャンピオンシップ、これを皆にしっかり認識してもらうこと。二つ目は、選手一人ひとりを見たときに、彼らがどういうマインドで、何をしなければならないのか、これをクリアにしてコミュニケートすることです。その過程において、コーチなど私以外の多くのスタッフたちと、さらに次の三つの質問を共有しています。
「選手一人ひとりが自分たちのことを信頼してくれていますか」「選手のことを人として気遣っていますか」、そして、たとえどんな選手であっても皆、改善を目指している、どう改善したらいいかを皆が日々、自問自答していますから「そのヘルプができますか」。
どれほど優れた選手であっても、選手というのは皆が自身の成長を意識しています。「もっと上手くなりたい」「もっとよいプレーをしたい」と。それを手助けするのが私の仕事だからです。
――チーム内で信頼関係を築くためのコツはありますか?
現在は野球だけでなく、あらゆる局面で以前と比べると信頼関係を築くことが難しい時代になったように感じています。そうしたなかで私は、伝えたいメッセージをクリアにすること、そしてそれに基づいて行動を示すことが大切だと思っています。
スタッフ、選手、リーダー、どのような立場にあっても、頼れる存在であること、一貫性がなければいけません。そして最後に、正直でいること。相手にとってそれがいいメッセージでも、たとえ悪いメッセージだったとしても、どんなときも正直に伝えなければ、本当の意味での信頼関係というのは築けません。
――日本の文化はクラブハウスに良い影響を与えたと思いますか?
もちろんあります。過去にMVPを獲得したこともある主力選手はこう話していました。
「2025年、Discipline(日々自らに訓練を課すこと)、Attention to Detail(細部にまで注意を払い、正確さを追求する姿勢)がなければ我々は優勝できなかった」と。
つまり、そうした日本の価値観が選手たちを成長させたのだろうと、その選手は言っているのです。それは私もまったくの同感ですし、私の心の奥にある沖縄生まれの母の教えとも完全に一致するものと思っています。そういう考え方、カルチャーがチーム内の共通言語として根付いているところが、我々の強さの秘密でもあるのです。
――ここで、少しANAのことに触れさせてください。ANAは今年、国際線就航40周年を迎えましたが、ロバーツ監督はANAについてどんな印象をお持ちですか?
私は日本で生まれた日系アメリカ人であることに誇りを感じています。ANAが世界と日本の架け橋であるように、私もそのような存在でありたいと思っています。また、ANAはとてもLoyalな企業という認識があります。国際線を運航させている40年もの間、多くの搭乗客から愛され、社員の多くがとても長く働いているとも聞いています。それはやはり、常に誠実に、よりよいサービスを提供する企業であろうと挑戦を続けている証であると思うからです。
――ありがとうございます。たしかにANAは努力と挑戦を大切にする企業文化を持っています。そこで質問ですが、監督自身はキャリアの過程で壁に当たったとき、めげることなく挑戦するために、どんな努力をしてきましたか?
新しい環境に飛び込むときと同様、準備を万全にしておくことが肝要です。それを前提としても、高い壁を前にすれば誰もが不安や不満、疑問などを持つと思いますが、私はネガティブな思考で「問題点」について考えるよりも、よりポジティブに「答え」にフォーカスするようにしています。壁に当たったからこそ、その答え、Solutionはなんだろうか、と集中するんです。
答えを見つける作業というのは必ずしも楽しいことばかりではありませんし、ときにはつらいこともありますが、私は自分自身で「これはポジティブに向かっているんだ」とマインドセットします。それが、チャレンジをワクワクに変えていく、私のやり方です。
――なかには失敗を恐れ、壁に立ち向かえない人もいます。そういう人に対して、監督はどんな言葉をかけますか?
私自身は失敗について考えることは好きではありません。そこにフォーカスしないよう心がけています。ですが、現実には失敗というものはつきもので……、つまり、失敗というのは誰もが当たり前にすることなんです。そこに固執し、思い悩むよりも、大切なのはその次だと考えます。そこに、その人の人格が表れると思っています。つらい状況に陥ってしまったとき、どう対処するか、次の一歩をどう踏み出すか、どんなResponseをするかが大事なんです。
そして、私は「その壁にぶつかったときの気持ちにも慣れなさい」と言いたいですね。そんなことはいくらでもあること、慣れてしまえばいいんです、特別視する必要はありません。それに、すべてのことが思いどおりに進んでいては、人は成長もありませんし、自分のポテンシャルに気づくこともないと思います。失敗ではなく、試練と捉えて前に進むべきなのです。
人生に試練はつきもの大事なのは“Response”、どんな次の一歩を踏み出すか

――全米で現在、最も熱いチームの監督というのは、ストレスも多い仕事だと思いますが、監督は心身を整えるために意識的にしていることはありますか?
私自身は、チームの皆やファン、メディアなど周囲の人の思いにも配慮しつつ、平常心を保つよう努めています。それが私の考える理想のリーダー像だからです。平常心を保つために心がけているのは、初心に立ち戻ること。「このチームの目指すゴールは?」と自問するんです。周りでどんなことが起ころうとも、このゴールだけは変わりません。常にそこを見据えて行動することを自分に課すようにしています。
ただ……これは正直、簡単なことではありません。そのために私もさまざまなトライアルを続け、心身のバランスを保つようにしてきました。それは例えばしっかり睡眠時間をとることであったり、信仰を持つことも心の安定につながると思います。また、私の場合はゴルフもそう。そして何より、家族の存在です。最愛の家族と過ごす時間を持つこともとても重要です。監督というのは、放っておくと常にチームを改善するために何が必要かを考え続けてしまう仕事です。ですから、ときには意識的にその思考を切ること、スイッチをオフにして、一度リセットするのも大切です。
――広大な北米を巡って野球をするということで、飛行機での移動も多いと思います。機内での時間というのもリセットになる?
おっしゃるとおりです。たとえば19時に試合開始の日、私は13時には球場に入ります。そして試合が終わり球場を離れるのは23時ぐらい。つまり10時間ずっと野球について考えを巡らせて、他のコーチたちと意見を交わし、選手たちにアドバイスも送り続けているのです。ですから、試合後の移動時間というのは疲労困憊、機内では眠って過ごすことがほとんどです。そのようにして強制的に思考をオフにすることも大切なのです。ですから、ご指摘のとおり、私にとって飛行機での移動時間は、重要なリセットのための時間なのです。
――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
日本のファンの方々は、私たちチームに喜びやエキサイトメントをもたらしてくれます。そのことを私はもちろん、選手たちも皆、とても感謝しています。そして最後に……2026年、今シーズンも私たちは勝ちます。日本の皆さんも心の準備をして、勝利の瞬間を待っていてください。
Get Ready for Another Championship Season.
撮影 上野立樹
取材・文 仲本剛
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