ベトナム人建築家が、竹建築を作りつづける理由〜ベトナムと竹のしなやかな関係 vol.1
古くからベトナムの人々の生活と文化に深く関わってきた竹。国の発展によりそれに代わる利便性の高いものが増えても、新たな価値と存在感を放つ。そんな竹とベトナムの人々との関係を探る当企画のvol.1では、日本への留学を経て竹を用いた建築の可能性に挑戦しつづける、ベトナム人建築家に話を聞いてみよう。
世界を驚かせるバンブーアーキテクツ
建築の新たな可能性を見出したと世界的に高く評価されている、ベトナム出身の建築家ヴォ・チョン・ギア氏の建築作品。彼にとって「竹」とは? また、竹建築の魅力とはいったい?
「ベトナム人にとって、竹はいつも心の中に存在している特別なもの。日本留学中に改めて竹のよさに気づき、『帰国したらベトナムの気候にマッチする建築をやってみよう』──そう思ったのが、竹の建築を手掛けるようになったきっかけです。
竹の建造物の最大の魅力であり特徴でもあるのが、空間の広がり。建物に足を踏み入れた瞬間、『うわっ、なんだこれ!』と驚きますよ。一本の小さな竹でも、それが合わさると巨大な建築物を作ることさえ可能になるのです。土台以外、すべて竹。素材の特徴を活かして加工し、重ね合わせて自在に空間を作りあげているということに、皆さん驚かれます。これはベトナム人を竹に喩える際に語られる、『一人では弱いけどみんなで力を合わせれば不可能なことはない』という言葉にも通じていますね。
もちろんサステナブルな素材としても竹は優れています。鉄やコンクリートを使うよりリーズナブル。ベトナム国内なら簡単に入手でき、環境に負担もかけません。そのうえデザインの自由度も高い。デザイナーや建築家たちが竹を見直し、使い始めているというのは、ある意味当然の流れといえるのかもしれません。加えてデザインが同じものなら、大きくしたほうが建築費や手間を抑えることが可能だという一面もあるんです。
地球のためにも、この先もっと竹の建築が広がっていくことを期待しています。もちろん日本にもね」
“デザイナーや建築家たちが竹を見直し、使い始めているのは当然の流れなのです”
ニンビンのクックフォン国立公園内に誕生した郊外リゾート内のレストラン。広さ1,000㎡の巨大空間を作るのに使われた竹の数は、約17万本。「かつてベトナム北部にあった王朝をイメージしつつ、大きな建造物にチャレンジしたくて、このようなデザインになりました」とギア氏。こちらの建物を囲むようにバンブーヴィラが立ち並ぶ。
Vedana Resort
ヴォ・チョン・ギア(Võ Trọng Nghĩa)
1976年、ベトナムのクアンビン生まれ。日本へ留学し、東京大学大学院などで学んだのち、ホーチミン市に「ヴォ・チョン・ギア・アーキテクツ」を開設。アーキテクツ・オブ・ザ・イヤー、国際建築賞、グリーングッドデザイン賞ほか受賞歴多数。早稲田大学博士学位取得。
写真:勝恵美 取材&文:山下マヌー コーディネーション:モアプロダクションベトナム 編集:山下美咲