ホテル屋上農園からサステナブルを考える〜自然と共存する都市5
1991年バンクーバーのウォーターフロントエリアに登場したホテル、“フェアモントウォーターフロント”。都市のホテルにもかかわらず、屋上スペースに小さな農園と養蜂場を設けている。1995年当時のシェフ、長田さんの発案がきっかけとなって、自分たちでハーブなどを作り、レストランの料理に使っている。それ以来今日まで、歴代のエグゼクティブシェフが育てている。現在は蜂蜜に加え、数十種類のハーブや野菜、りんごまで育てるようになった。
「この素晴らし環境に恵まれていると、サステナブルとかそういうことを考えざるを得なくなるのではないか」というのはエグゼクティブシェフのAdamuさん。
「料理で使う全ての野菜を賄うことはできないが、エグゼクティブシェフが育てているのを下のスタッフたちが目にすることで、自分たちが使う食材がどのような手間と時間を犠牲にして作られてきたのかを知ることができ、無駄にはできないという意識や、どれだけ手間がかかっているのかを理解するんです。結果的にそれがフードロスに繋がっている」(Adamuさん)。まだSDG’S、サステナブルといった言葉などまだなかった時代から続けていたことが、今ではサステナブル認証を受けたバンクバーバーのホテルのリーダー的存在になっているのだ。
ある意味、時代が追いついてきたということでもあるのだが、サステナブルな取り組みを続けてきたことでゲストからの見る目は変わったのだろうか?
「確かに変わってきています。特に若い世代の人たちがそういうことを意識していると感じます。コロナを経験し、人々は意味のあることをやろうとしている。旅をするときにはとくにそのような視点が必要なのだということも感じています。単純に「それ、いいね」ではなく、「それ、ちゃんとやらなくちゃ」というふうに変わってきていると感じます。そして自分たちがここで30年近く「ちゃんとやってきた」ことが評価されているのだと思います。
また、HIVEという団体と繋がり、養蜂を通じてダウンタウンのホームレス達に自信を取り戻してもらう活動も行っている。
「サステナビリティというのは、緑や環境が保たれていくということだけではなく、強いコミュニティを作るということが目的でもあるんです」。
単に観光客を泊めるためだけではなく、コミュニティの団結を強くする。バンクーバーにはそんなホテルもあるのだ。
因みに蜂蜜は毎日の朝食ビュッフェで提供されている。
取材・文:山下マヌー 写真:秋田大輔