少数民族の伝統を繋ぐ「絶景カフェオレ」〜タイ リアルローカルに触れる3
ミャンマーとの国境手前、約10キロの位置にあるジャポー地区。ラフ民族が暮らす山間のこの小さな集落に、初めてタイ人がやってきたのが10数年前。以降、外との交流が少しづつ始まり、やがて現在のように外国人観光客も訪れるようになった。最初にやってきたタイ人が村からの絶景に感動。「ここに人を連れてきてもよいか」と相談されたのがきっかけだったという。おそらくそのタイ人は、この村の観光地としてのポテンシャルに気づいたのだろう。タイは当時からヒッピーやバックパッカーに人気の高い旅行先であり、とくにヒッピーたちはその他大勢の観光客がいないところを目指し、ジャポーの麓の町、パイまで“進出”を初めていた時期とも重なる。
「村からの絶景は当時と変わっていません。今でも外から来た人は、先ずこの絶景に驚きます。それも私達の誇りですが、それより村の昔ながらの生活スタイル、畑での農作業を体験してほしい。なぜならそれが自然と共に暮らしてきた、私たちラフ民族だからです」と、村の世話役ナコーさんは話す。
交流は人だけにとどまらず、異なる文化や風習も目にするようになる。外部との接点や情報も増えていく中、都会のほうが便利だとは思わないのかと尋ねてみた。
「全く思わない。町はクルマも多いしザワザワしている。暑いし風も生ぬるい。人間が暮らす環境としてはこちらのほうが適しています」と、答える。なるほど、たしかにここにいると風は心地よいし、空気もよどんでいない。しかし若い人たちにとってはどうなのだろう?
「クルマやオートバイを買って都会に出ていく者もいる。しかしその後戻ってくる者のほうが多いのです。私の息子のように、コーヒーショップをやったり、ホームスティで観光客を受け入れ、現金を得たり」。
なるほど、若者は若者のやり方で村のポテンシャルを活かしつつ、村に現金収入をもたらしているというわけだ。
昔ながらの自給自足のスタイルで暮らしてきた山岳民族とはいえ、現代においては現金が必要不可欠。そのためにコミュニティベースドツアーが果たす役割は少なくない。観光客が落とすお金は村に現金収入をもたらし、村ではそれを使って民族の文化や伝統を守り、次世代に伝えていくことができるようになる。旅人と村人との間には、そんな好循環が生まれている。ジャポー村の絶景テラスで飲むカフェオレもまた、そんな循環に組み込まれているのかと思うと、「もう一杯お願いします!」と、ついおかわりをしたくなる?
取材・文・写真:山下マヌー