快適な水上生活を蝕むもの〜タイ リアルローカルに触れる1
「水上生活者」というのは、「陸地に家を持てない貧しい人」のこと。そんなイメージを持っている人も少なくないのではないか。ニュースなどで映し出される、「貧しい人々が暮らすエリア」のアイコンの一つとして紹介されることが多く、そういうイメージが刷り込まれているからかもしれない。今回タイのピタック島での水上生活者の家を訪ねるまでは、自分もそう思い込んでいた。ところがここは実に快適で、タイ南部という蒸し暑い地域にも関わらず、海からの風が心地よくエアコンも必要ない。どの部屋の窓からでもオーシャンビュー(海の上なので、オン・ジ・オーシャンというべきか?)を望める。
再生エネルギーを利用することで電気もあり、シャワーからは温水も出る。簡易とはいえトイレは水栓。もちろん、食事はいつでも採れたての新鮮な魚介類が食べられる。ただし、毎日魚ばかりでは飽きてしまうので、「野菜と肉は外から買うことがある」とのこと。
そんな快適な水上生活にも、どうにも我慢ならない困った問題があると言い、それがゴミ問題。タイ湾の入り口付近に位置するコピット島には、潮の流れに乗ってサムイ島やパンガン島など、所謂リゾートアイランドからのゴミが漂着するのだ。再生利用ができるものは肥料にしているというが、缶や瓶、プラスチック類は処理できない。手作業で肥料にするもの、売れるものに分別して処理はしているが、年々ゴミの量が多くなり、手作業では追いつかなくなっている。
島にはゴミの集積場所もなく、島の人々が今一番欲しいものは「ゴミを潰して小さくする道具」。燃やすのではなく、潰して小さくして島の外へ運べば再利用ができる。燃やせば手間は省けるかもしれないが、「二酸化炭素を排出するのでしない」という。
船で一周約30分の小さなこの島は、幸いにも水上生活を続ける漁師達により、ギリギリのところで守られている。島の人々の海を思う気持ちと島の景観を蝕むもの、それは都会人の「無駄」から生まれていることは間違いない。
取材・文・写真:山下マヌー