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オルヴァルで体感するベルギーの歴史と文化の重ね絵|廃墟の隣に生きる修道院

オルヴァルで体感するベルギーの歴史と文化の重ね絵|廃墟の隣に生きる修道院

TRAVEL 2026.09 ベルギー特集

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1070年の創建以来、幾多の歴史を刻んできたベルギーの「オルヴァル修道院」。フランス革命で破壊された中世の廃墟を解体せずそのまま遺し、その隣に新たな修道院を建てることで、失われた歴史と現代の祈りがひとつの風景として共存しています。

本記事では、時代ごとの建築美が重なる回廊や歴史の深み、今なお受け継がれるトラピストビールやチーズの文化まで、オルヴァル修道院が教えてくれる「交わり、受け継がれるベルギーの魅力」を紐解きます。

ベルギーのレイヤーを体感する修道院

森の中に二つの修道院が並んでいる。左には屋根を失った中世の修道院。その奥には20世紀に建て直された新しい修道院。普通なら古い建物を壊して、新しい建物を建てる。けれどここ、オルヴァルは違った。壊れた歴史を、そのまま未来の隣に残したのである。

修道院なのに、最初に案内されるのは教会ではない。廃墟だ。1070年に始まり、中世にはヨーロッパ有数の修道院となったオルヴァルは、18世紀末、フランス革命の混乱の中で破壊された。だから旅人は、完成した建築ではなく、失われた入口から歴史の中へと入っていくことになる。

アーチをくぐるたび、時代をまたぐ回廊を歩く。一つ目のアーチ。その向こうにもう一つ。さらにその奥にもアーチ。視線は自然に奥へ奥へと吸い込まれていく。石だけが残る静かな空間を歩いているうち、この場所が800年という時間を伝えていることを、だんだんと感じられるようになる。

柱を見上げれば、葡萄のレリーフが彫られている。ロマネスクの重厚さ。その後に加わったゴシック。さらに20世紀の再建。一つの建物ではない。何度も手が加えられ、異なる時代が一つの建築になっている。「建物そのものが歴史の重なりなんです」と聞かされた意味が、ここでようやく分かる。

歩いていると、崩れた石壁の向こうから鐘楼が現れる。今も修道士が暮らす修道院だ。1926年、世界中から寄付が集まり、新しい修道院が建てられた。しかし、古い修道院は壊されたままの状態で残した。失われた歴史を、消さなかったのである。つまり、廃墟の向こうがあり、現在が存在しているのだ。

現在、この修道院で暮らす修道士はわずか数人。それでも祈りは続き、トラピストビールとチーズは今も造られている。ドイツから伝わった醸造文化。フランスの修道院文化。イタリアに源流を持つロマネスク建築。それぞれが混ざり合い、この場所で、ここだけの時間になった。そして歴史は今も続いている。

最後に、廃墟の裏手の森へ少し足を延ばしてみた。木々に覆われ、石壁は少しずつ自然へ帰ろうとしている。完全には消えてはいない。壊されても残り、残ったものの上に新しい時間が積み重なる。オルヴァル修道院を歩いていると、歴史とは過去を保存することではなく、失われたものまで抱えながら未来へ進むことなのだと気づかされる。

ベルギーを「文化が交わる国」と表現することは多い。けれど、この場所が教えてくれるのは、交わるだけではない。壊れ、受け継がれ、そしてまた生まれる。その繰り返しこそが、この国の風景をつくってきたのだ。

写真 Dice.M.P.
取材・文 山下マヌー

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