バリ島・グリーンヴィレッジが「建物」の概念を変える まるでアートな竹建築
豊かな自然に恵まれた“神々の島”として多くの旅人を惹きつけてきたインドネシアのバリ島が今、さらなる飛躍を遂げている。世界水準の新たな文化や美意識を形成するのは、楽園を求めここへ導かれた人々。地球の未来をも見据えた有機的な生き方が、そこにはあるのだ。サステナブルな素材として近年注目される竹を柔軟な発想で操った美しい建築と、その仕掛け人の姿を捉えた。
自然と融合し、未来を紡ぐ意匠

まるで物語から飛び出したような開放感あふれる空間が特徴の、自然と一体化できる家。世界中からサステナブルな暮らしや滞在を求める人が集まる「グリーン ヴィレッジ」は、竹建築の実現性と将来性を如実に裏付ける場所として知られている。


竹は成長が早く、引っ張られたときの強度が鋼と同等であることから“最も持続可能な建材”と近年注目の的に。こちらでは建物の柱から家具に至るまで多彩な種類の竹が縦横無尽に用いられ、個人の住居や宿泊施設としてリュクスな生活空間を形成している。
現在も新たに7棟を建設中で、2025年には共用のプール、スパ、ヨガ施設がお披露目される予定。しなやかでダイナミックな建造物は、時間の概念や人生との向き合い方にまで変化をもたらしそうだ。

Green Village
Jalan Tanah Ayu, Sibang Gede,Abiansemal, Badung, Bali
世界の竹建築をリードする建築スタジオを訪ねて

竹建築が世界各地で人々の心を打つ背景には、比類なき価値を信じ率先して具現化してきた人々の姿がある。そのトップランナーのひとりが、バリ島を拠点に持つ建築デザインスタジオの「イブク」を率いるエローラさんだ。
カナダ人のジュエリーデザイナーで環境活動家でもあるジョン・ハーディの娘としてバリ島で育った彼女は、アメリカのアートスクールと美術大学へ進学。ニューヨークの服飾業界で働いたのち、両親が構想した“地球に優しい世界”を現実とするコミュニティづくりのプロジェクトに賛同し、この地へ戻ってきた。
「私が受けたのは地元の公立学校の従来型教育でしたが“アイデアを思い描き、他者と話し合ってそれを実現する”という考え方は家族の中の当たり前で。例えば母は家を建てるとき『どんなふうにしたい?』と私に絵を描かせ、それを実現してくれました。また父に『ハロウィンの衣装が欲しい』とお願いしたら『では鍛冶職人さんに理想の形を伝えてきてごらん』と返事が。自分たちでジャングルジムを作ったこともあります」
高等教育でアートの知識を身につけたエローラさんは、建築を専門的に習学したわけではない。しかし「専門家の中には『もしあなたが建築を学んでいたら、この発想は浮かばなかっただろう』と言う人が数多くいます」。だからこそ、彼女はバリの職人たちの技術と芸術性を信頼し、デザインに「余地を残す」ことを心がけるという。「すべてを計画しようとするのではなく、現場で話し合って図面上では見えない現実や自然の変化に適応し、最適なアイデアを見つけるのです」
“自然から隔離されず、身を置く人が心地よくなる建物の形を”

自らの手がけた作品に対する“モダンで最先端”という評価を、彼女は意外で興味深いと笑う。「試みているのは、既成概念にとらわれないアプローチというだけ。『この素材があって、そこに何かを作りたい。では、どんな形が最もふさわしい?』ということを一から考えるんです。それはまさしく、何か最先端のものを意図するのとは正反対の方法で、AIにそのレシピを尋ねてもけっして私たちのやり方にはならないでしょう」
エローラさんが信じているのは「従来の枠組みから一歩外に出れば、無限の可能性が拡がっている」ということ。「自分たち自身を自然界から隔離する建物のあり方は変わるべきと考えますが、その結論は竹や曲線的なデザインでなくてもよいのです。ここを訪れた人には“まだ見ぬ世界の創造は可能”だということが伝われば」
現代において建物は、自然からの隔絶の象徴に。「でも世界が抱える問題を見ていると、また自然界とのつながりが求められている気がするんです」とエローラさん。バリ島の豊かな自然や職人たちとの結束力を糧に、その真実を模索する。
IBUKU
Aldo’s Studio, Banjar Piakan, Sibang Kaja, Abiansemal, Badung, Bali
バリ島への翼
ANAとガルーダ・インドネシア航空のコードシェア直行便で成田国際空港(NRT)からバリ・デンパサール国際空港(DPS)まで約7時間55分。帰国便は同様の経路で約7時間10分。バリ・デンパサール国際空港(DPS)から海沿いの市街地エリアまでは車で約15分~1時間、ウブドまでは車で1時間半程度。
写真 レシールマグズ
取材・文・編集 山下美咲