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湯浅町に息づく日本醤油の作り方 伝統の味をそのままに

湯浅町に息づく日本醤油の作り方 伝統の味をそのままに

TRAVEL 2024.06  和歌山特集

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かつて海上交通が盛んだった頃、三方が海に面した和歌山県は瀬戸内海と太平洋を結ぶ交通の要衝だった。よって和歌山には、海を通じて様々な文化が伝わってきた。それらをここで暮らす人々が積極的に取り入れたことにより、味噌、醤油、そして梅干しといった日本食の礎を築く食材は生まれ、発展していったという歴史を持つ。我々日本人が愛してやまない「日本の味」のはじまりの地を巡る旅に出かけてみよう。

大陸から伝わった金山寺味噌から日本独自の醤油へ

法燈国師が中国から伝えた味をもとに発展した金山寺味噌。その製造過程で生まれる水分が醤油のはじまりだ。塩の浸透圧によって野菜からにじみ出てくるこの水分を、工夫と改善を重ねて、今の醤油へと姿を変えていった。

熊野古道の宿場町として栄えた湯浅町で生まれた醤油は、江戸時代になると大阪、京都など各地で名声を高めていく。当時、人家が1000戸ほどだった湯浅に、92軒もの醤油屋が軒を並べていたというから、人気ぶりがうかがい知れる。大都市である江戸での販売に目をつけ、千葉県銚子で醸造をすることに。この結果、日本全国に醤油の文化が伝播していくことになる。現在、湯浅町に残る醸造業者は数軒のみだが、伝統の灯を消すことなく、当時の味、手法を守り続けている。

現存する醸造業者の中で最も古い歴史を持つ「角長」は、「太田久助吟製」と同じく、重要伝統的建造物群保存地区に蔵を構える。蔵は香ばしく豊かな醤油の香りに包まれており、柱や壁には、味の個性を担保する「蔵つき酵母」が棲み着いている。重厚な雰囲気はまるで洞窟のようだ。圧力釜や直径2mを超す大きな仕込み木樽、薪で火入れをする釜などの時の重なりを感じさせるダイナミックな道具にも目が奪われる。機械に頼ることなく、手作業で仕込んだ醤油からは、醸造文化にゆかりを持つ湯浅町が辿ってきた歴史と文化が立ち上ってくる。

昔ながらの醤油造りの工程は、蒸した大豆、煎って砕いた小麦に種麹菌を混ぜ合わせ、麹室に入れることから始まる。約4日後、塩、水と合わせて仕込み木樽に。撹拌(かくはん)作業を繰り返しながら、1年半ほどかけて発酵させ、搾りにかけ、薪の火で炊き上げる。これらの工程を機械に頼らずに手作業で行うことで、醤油本来の味、香り、色に仕上げていくのだ。

当時から変わらぬ製造手法「湯浅たまり」

700kg以上の大豆を蒸すことができるボイラー。

天保12年創業。湯浅醤油の老舗。歴史的景観を残しながら、当時と変わらぬ手法「湯浅たまり」で醤油を造り続けていることが評価され、重要文化財にも指定されている。漫画『美味しんぼ』に掲載されるなど、全国的知名度を誇る。

吉野杉の仕込み樽。

「湯浅手づくり醤油」695円〜。圧縮も加熱もしないで造る「濁り醤」788円〜。

蔵では全国への発送作業も行う。

角長

和歌山県有田郡湯浅町湯浅7

http://www.kadocho.co.jp

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醤油を暮らしに息づかせる

JR湯浅駅の旧駅舎を再活用したカフェ。地元名産品の販売も行う。「角長」の醤油や、金山寺味噌のたまりだれをたっぷりとかける炙りもちが人気メニュー。

直火で焦げ目がつくまで炙(あぶ)り、香ばしく仕上げる。ふわふわの軽やかな食感がクセになる。店内の壁は「角長」の醤油粕(もろみから搾られた固体状のもの)で塗られ、彩られている。

湯浅米醤

和歌山県有田郡湯浅町湯浅1075-2

Instagram @yuasabeishou

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1900年創業の日本料理店。近くで獲れた新鮮なしらすに、「角長」をはじめ地元の醤油をブレンドした特製醤油をかけていただく。新鮮な魚には、おいしい醤油が不可欠だと教えてくれる、シンプルな丼。

横楠(よこぐす)

和歌山県有田郡湯浅町湯浅664

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写真 吉田歩
取材・文 高田真莉絵

和歌山への翼
和歌山へは東京(羽田)などから ANA便で関西国際空港へ。

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