愛と知恵を持っておもてなしする、農家民宿「知憩軒(ちけいけん)」~水の都 庄内vol.1
山に囲まれ日本海に面した、山形県「庄内」地域。出羽山地の向こうには内陸(山形市)、鳥海山(ちょうかいさん)の向こうには秋田県、朝日山地の向こうには新潟県が広がっている。日本海にも面しており、最上川、赤川など多くの川が流れるその肥沃な土地は、山々に守られながら安穏が保たれてきた。その土地で食を育み、扱う人たちに話を伺うと誰もが「山によって台風からも免れ、水に困らない土地だからこそ食材の宝庫」と幸せそうに話す。安穏の地に広がる水田には空、雲、山並みが映りキラキラと輝いている。
暮らしの豊かさを、光さんの知恵に学ぶ
山形県鶴岡市にある農家民宿、レストラン「知憩軒(ちけいけん)」。約25年前に開業して以来HPも持たないここに足を運ぶ人が絶えないのは、店主長南光(ちょうなんみつ)さんご自身と彼女が作る料理の魅力ゆえ。果樹畑に沿った愛らしい小道を進むと「知憩軒」が現れる。開業のきっかけは名前に込められている。
「働いてばかりいた農家の母ちゃんたちに雨宿りしてもらおうというのが始まり。軒の下で憩いながら、もう少し利口に暮らそうよって。たまには上菓子でお茶飲んでのんびりする時間もいいじゃないと茶室も作りました」
そう笑顔で話す光さんご自身も農家の娘として生まれ、小学生の頃から田んぼに出ていた。現在も知憩軒から小道を抜けると、光さんの畑が現れる。「四季がはっきりした山形は、野菜も米も美味しい。金峯山(きんぼうざん)は孟宗竹(もうそうちく)や山菜もよく採れますし。雪の下で雪解けを待つ山菜は、春になるとボーンと一気に伸びる。だから雪降る地の山菜は特別柔らかくて美味しいんだよね。月の表面にエネルギーがある満月時は発芽率がいいので種を蒔(ま)き、土の下にエネルギーを持つ新月時はすぐに根付いてくれるので移植します。月の営みを考慮すれば、農薬を使わなくても丈夫に育ってくれます。料理のメニューもなく、その時に畑で採れたものを郷土料理として出しています」土に一番近い真っ当な暮らしをしている光さん。ここは、彼女の生き方を五感で感じられる場所。
朝食。「火曜水曜は畑の日。水曜午後から料理の仕込みを始めます。田舎の料理はコトコト煮るのが調理法だから薄味で長い間煮て、冷まして翌日に出しています」
農家レストラン、宿泊者の食事スペース。
孟宗とは筍のこと。この日も採れたてが玄関に置かれていた。
知憩軒(ちけいけん)
山形県鶴岡市西荒屋字宮の根91
TEL:0235-57-2130
農家レストラン 11:30〜14:00(L.O.13:30)
休/火曜・水曜
撮影:関めぐみ
取材&文:桃本梨恵(Lita)
取材コーディネート協力:鈴木伸夫・有路理永
編集:中野桜子