草木染ののれんが揺れる町・勝山ー岡山・真庭で自然とともに暮らす-6
岡山県の中北部に位置する真庭市は、上房郡北房町、真庭郡落合町、勝山町、久世町、美甘村、湯原町、中和村、八束村、川上村が合併して誕生した、県内最大の面積を有する市。もともと落合は農業の町で、勝山は武家の町、久世は商人の町、湯原は温泉の町……とそれぞれに地域性があり、気質も文化も街並みもそれぞれ。
二万三千石三浦藩の城下町だった勝山は、出雲街道の宿場町として栄えた面影が今でも残り、白壁や土蔵、格子窓の商家が佇むノスタルジックな街並みが魅力だ。藩に日本酒をおさめていた由緒ある酒蔵「御前酒蔵元辻本店」を訪ねたとき、まず目を奪われたのが軒先に揺れる鮮やかなのれん。描かれた意匠は角樽をモチーフにしているという。
揺れるのれんに誘われて
御前酒蔵元辻本店だけではない。旭川に沿って約700mほど続く旧出雲街道を歩くと、家々の軒先には下駄や車、鎌や独楽、車輪など、さまざまな意匠を凝らした個性豊かなのれんがかかっている。
そのすべてを手掛けたのが、勝山在住の草木染の染織家、加納容子さん。もともとは当時、自身が営む酒店のために染めてかけたのれんに目を留めた町の人が「うちの店にも作ってほしい」と声をかけたのがきっかけ。
それが町全体に広がり、商店のみならず、個人宅にものれんがかかっているという。その数なんと90あまり。ひらひらと揺れるのれんは、まるで手招きしているかのようだ。
揺れるのれんに誘われて町を歩きながら、何をモチーフにしているのか、どんな人が暮らしているのかを想像するのも楽しい。例えばこちらの「理容コユキ」。理髪店であることは一目瞭然だが、この3つの三角形はいったい何を意味しているのかと立ち止まらずにはいられない。答えは「櫛」。
蔵元のある町、勝山は、ただぶらぶらと通りを歩くだけで楽しく、想像力の翼を自由に広げられる町だった。
撮影/大沼ショージ
取材・文・構成/和田紀子