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別府・九重・長湯温泉で体と心を癒す旅 「地獄」と呼ばれた大分の秘湯を巡る

別府・九重・長湯温泉で体と心を癒す旅 「地獄」と呼ばれた大分の秘湯を巡る

TRAVEL 2025.05 大分特集

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地獄から生まれた五万年続く桃源郷

大分県は、日本でも最大規模といえる温泉地。別府温泉においては、毎分約10万ℓの湧出量と豊富な泉質、源泉数を誇る。別府温泉の誕生は地熱学から見ると今から5万年前といわれ、その昔はぐつぐつと沸き上がる様が「まるで地獄だ」と恐れられたそうな。温泉の力に気づいた人々が築き上げた温泉街はまさに地獄から天国。自然から生まれた歴史と文化の片鱗を感じに行くとしよう。

湯けむり展望台から。常時あちこちから湧き上がる湯けむりがこの町の日常風景。昼、夕方、夜で違う風情を見せてくれる。NHKによる「21世紀に残したい日本の風景百選」で第2位に選出されている。

176年の時を超え愛される秘湯。「日本一冷たい温泉」は「日本一の水風呂」へ

峠を越え九重(ここのえ)を目指す。この日は一寸先も見えない霧。人里離れた秘湯に着いたかと思えば、ゾロゾロと人が吸い込まれていくではないか。江戸末期嘉永2年開場の温泉は、昭和3年「寒の地獄旅館」として創業。当時から冷泉は夏の3か月だけ、親しまれた。

館主の武石真澄さんは4代目。湧き続ける冷泉とともに育ち、今も歴史を歩む。ただでさえ泉質がすばらしい老舗温泉宿で新たな試みをした。冷泉は昔のまま残し、用途をサウナの水風呂として「日本一の水風呂」と世の中に広めたのだ。

武石さんは言う。「ここに住み続ける、ということ自体が自分の使命だと思っているんです。自分の好きな料理や酒、温浴、そして環境を作ることで、訪れる人に秘境であるこの地を楽しんでほしい」

冷泉の切石風呂は2槽。硫黄のにおいに安心して足を入れれば、源泉13 ~14℃の冷たさに驚く。強い効能を感じるが、堪能するのはサウナ後のお楽しみ。まさに水風呂のためのサウナ!

日帰り入浴と宿泊の玄関。建物は昭和の木造建築のよさを残す。
現在と同じ場所で、老若男女ともに冷泉の湯船に入る昭和の風景。夏の避暑地として親しまれた。
「飲泉」可能。温泉成分を体に直接吸収できる。
昔のお客様から授かったお薬師様が祀られる。心身ともに浄化できる場所。
旅館の脇を流れる冷泉の川。硫黄の香りと岩の変色に強い効能を感じる。冷泉の湧出量は毎分2トン以上。泉質は硫黄泉で殺菌作用に優れ、アトピー性皮膚炎の入浴客も多く訪れる。
大きな薪ストーブが置かれ、セルフロウリュできる熱いサウナ。冷泉とのギャップがたまらない。
冷泉を温め温泉にした互久楽湯(男女交代制)、貸切の家族風呂も。
ご当地食材も楽しめる、囲炉裏を囲んだ懐石料理に舌鼓を打つ。館主が厳選したお酒に合う前菜の数々も絶品。

寒の地獄旅館

大分県玖珠郡九重町田野257

TEL 0973-79-2124

http://kannojigoku.jp

Instagram @kannojigoku

千差万別、歴史が深い大分湯治めぐり

8世紀初めの『伊予国風土記』に「湯浴みにより病が回復した」と記されているように、この頃には、温泉地獄に不思議な効能があると気づいた者たちがここを温泉天国と化したのだろう。

別府を歩けば公衆温浴施設が至る所にあり、みな自身のシャンプーバッグを持ちさっぱり顔で出てくる。大分の温浴文化は多彩。「ひょうたん温泉」は多数の温泉を備え、なかでも賑わうのが「砂湯」。100%別府の海の砂を使用し、のぼせずじんわりと驚くほどの汗をかく。

男湯19本、女湯8本の「瀧湯」。肩や背中などに湯を当てることで、血行をよくする温泉療法のひとつ。
中庭や休憩スペースでふわっと香る温泉卵タイムを。
1922年の創業時からあるひょうたん形の温泉。創業者の河野順作翁が尊敬している豊臣秀吉公の旗印が千成ひょうたんだったことから、ひょうたん形の岩風呂が作られ、名前の由来に。

他の砂場に比べさらさらした感触が特徴。程よい重みがのしかかるのが気持ちいい。専用の浴衣を着て、大人も子どもも一緒に入れ、自分たちで砂をかけ合う。

ひょうたん温泉

大分県別府市鉄輪159 -2

TEL 0977-66-0527

https://www.hyotan-onsen.com

Instagram @hyotanonsen_official

別府で特徴的な湯治が「蒸し湯」。「鉄輪(かんなわ)むし湯」は鎌倉時代の建治2年(1276年)に僧侶・一遍上人(いっぺんしょうにん)により創設。清流沿いにしか群生しない薬草「石菖(せきしょう)」が敷き詰められ、そこに横たわる。温泉の噴気で全身を蒸され、8分で爽快な発汗紀行をする。

清涼感あふれる石菖の香りに包まれ体がほぐれる。蒸し湯の利用時間は8~10分。
1メートル四方の小さな木戸を開けて石室に入ると、約8畳ほどの蒸気が満ち満ちと溢れる石菖絨毯(せきしょうじゅうたん)の世界。

鉄輪むし湯

大分県別府市鉄輪上1

TEL 0977-67-3880

Instagram @kannawa_mushiyu

竹田市屈指の炭酸泉「ラムネ温泉館」の物語は、文豪・大佛(おさらぎ)次郎先生の言葉から始まる。この炭酸泉を体験し 「全身にくまなく細かい気泡がくっつく。手でこすり落としても気泡はあとからあとからくっつく。まるでラムネの湯だね」と表現。

40年後、ここから名付けられた「ラムネ温泉」の歴史が木造の建屋で始まった。しゅわしゅわと湧き続ける炭酸泉は“ぬるさ”を楽しむ。炭酸×交互浴の体験をして初めて、文豪の表現に感嘆する。

大浴場には、源泉掛け流しの42℃の内湯と32℃の露天があり、交互に浸かることで高い温浴効果が期待できる。家族風呂も2つの炭酸泉の交互浴ができ、人気。

炭酸ガスがたっぷりと溶け込んだ、世界的に注目される泉質。

まるで番頭の「ラムネコ」。猫たちが迎えてくれる。大佛次郎も大の猫好きだったそう。

建築を手掛けたのは、東京大学名誉教授で建築家の藤森照信氏。屋根には銅板を取り入れ、昔ながらの茅葺き屋根を表現。

焼き杉が使われた黒と白のストライプ柄が印象的な外観。2階はここ長湯温泉と縁が深い文人たちの作品を展示した美術館。

ラムネ温泉館

大分県竹田市直入町大字長湯7676-2

TEL 0974-75-2620

https://lamune-onsen.co.jp

Instagram @lamune_onsen

サウナ・ウェルネスプロデューサー 笹野美紀恵

実家は、“サウナの聖地”として知られる静岡「サウナしきじ」。ホテルの温浴施設をプロデュースするほか、医療機関とオリジナルの薬草入浴剤を共同開発するなど、未病予防にサウナを活用する取り組みも行っている。

撮影 藤原次郎
コーディネート 菊池智子
取材・文・編集 中野桜子

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