“唐津イタリアン”の名店「Y’S KITCHEN」~唐津「土の恵み」を守り継ぐ-6
「山と海に囲まれた唐津は、年間を通してベストな食材に恵まれた地。私は、料理で唐津を表現したいんです」と話してくれたのは、オーナーシェフの中江義行さん。日々、近隣の漁港や畑に出向き、旬の食材や生産者の声に耳を傾けることを大切にしている。その理由を尋ねると「単純に自分の目で見て知りたいじゃないですか。それに、畑にいるときにメニューが浮かぶことも多いんですよね」と、常連客からその人柄をも愛される朗らかな笑顔で教えてくれた。
素材の旨みを引き出す地元愛とたしかな技術
ミシュランガイドで一つ星を獲得した地元の名店として、2002年の創業以来、中江シェフの一皿が幅広い世代のお客から愛されてきたもうひとつの理由が、動物性クリームなどを最小限にとどめたシンプルな味付けにあるだろう。ランチコースでも全8品のボリュームだが、食後の重さは一切感じない。
この日の一皿目は「糸島のトウモロコシ、カカオニブ」。糖度の高い新鮮なとうもろこしをムース状にしてクッキー生地の上にのせ、甘くないカカオで香り付けをした、一口サイズの前菜だ。
前菜2皿目は「糸島のアンデスレッド、ペコリーノ・ロマーノ」。じゃがいものアイスクリームに削った羊のチーズがかけられた一品。取材にうかがったのは、まだ暑さ厳しい夏の頃だったため、冷ややかな前菜の登場に嬉しい驚きと感動が!
3皿目の魚料理「対馬のゴマ鯖、赤い野菜」に続いて提供された「幸多里(こうたり)の2年岩牡蠣、ライムキャビア、レモン」は、55度の低温で1時間かけて火入れされた地元産の牡蠣を、レモンのエスプーマとキャビアのような食感のライムの実でいただく。濃厚な旨味が口いっぱいにひろがる至極の一皿だ。
「肥前町の鱧、浜玉のグリーンイチジク」。ふわりと優しい鱧のフリットには、グリーンイチジクとサフランソース、フェンネルが添えられ、食感と香りを同時に楽しめるピンチョスに。
「姫島のヤリイカ、モモ、スパゲッティーニ」。オリーブオイルとレモン、塩のみで味付けされた冷製パスタは、イカとモモの素材の旨みをダイレクトに感じることのできる、シンプルながら奥行きある一皿だ。
ランチコースは魚がメイン。この日のメインデッシュは「鎮西(ちんぜい)町の甘鯛、厳木(きゅうらぎ)の白ナス」。鱗の食感が香ばしい甘鯛を、白ナスのソースと燻製されたオイルパウダーでいただく。
デザートは「糸島のスモモ、村山牛乳、レモンバーベナ」。料理名のほとんどが産地と食材名のみなのは「料理は食材が主役」とのシェフの思いの表れだ。
食後の飲み物に添えられた小菓子もすべてシェフの手作り。
恵まれた土壌で育まれた食材が、素材のよさを最大限に引き出す技術と、一手間も二手間もかけるシェフの愛情によって、唯一無二の「唐津イタリアン」に生まれ変わっているのだ。
Y’S KITCHEN
佐賀県唐津市和多田西山3-36
TEL:0955-72-8716
https://www.yskitchen.biz/
撮影:yOU
取材&文:小嶋美樹